『果てしのない本の話』岡本仁

●今回の書評担当者●HMV & BOOKS TOKYO 鈴木雅代

 かつて『relax』という雑誌があったことを皆さん憶えているだろうか。

 その世界観に憧れ、発売日を心待ちにしていた矢先、2006年の休刊の知らせに嘆いた人はたくさん居たことでしょう。

 そのうちの一人だった私は当時、たぶんターゲットであろう背伸びしたいお年頃でも、都会のキッズでもなんでもなく、ただの田舎の会社員で、雑誌が終わる頃にはお母さんという立場の人になっていた。けれど今月はいったいどんな特集なのかと、本屋で探し見つけてはその表紙の斬新さに驚き、自分だけにしか価値がわからない宝物を抱えるようにしてレジに向かったものだった。

 今も、発売されるたくさんの雑誌を前に、いったい自分に合う趣旨のものはどれなのかと考えてしまう。毎月「待ってました!」と楽しみにするようなお気に入りを作りたい。でもそういえばあの『relax』は、自分の趣味に合う合わないとか、そういうことではなかったなと思い出す。

 取り上げるものは『ペプシコーラ』であったり『篠山紀信』だったり。『ペットサウンズと読書』など一見して内容が掴めない号もあり、毎号ガラリと特集が変わることに本当に快く裏切られ、ヒップホップやスケート、裏原宿的なファッションについて何の接点もない私でも隅々の小さなコラムまでわくわくと読まされた。挟まれるイラストはほどよく力が抜け、佐内正史やホンマタカシの写真はやけに生々しく感じてどきどきした。

 背表紙のタイトルの下に書かれるテーマは、普通の雑誌と比べるとやや長め。セリフのようなポエムのような言葉。『いつものファミレスに約束してないのにみんな集まってて、そこから始まるいろんなこと』『もっと歳をとったら素敵じゃないか?そう、ブライアンが言ってますよ』。本棚に並んだ『relax』の背表紙をぼんやり眺めてると、なんだか楽しい気分になったっけ。

 その『relax』の名編集長・岡本仁さんが雑誌『HUGE』に連載していたコラムを『果てしのない本の話』という単行本にしてくれたのは、本の雑誌社さんです! ありがとう! ほんとうにうれしかったので、声を大にして言える機会はこの場かと温めてきました。

 本の話と書いてあるけれど、書評ではなく、岡本さんが旅をしながら人に会い、何かを見、そして思い出した出来事や本や映画、音楽の話を短い章でぽつりぽつりと書いている。出て来た本の紹介として毎回話の終わりに、本の表紙が3冊映ったBOOK MAPが載っているが、普通の感覚ではこうは繋げられないなぁ......と、そのセンスと知識に感服させられた。先ほど紹介した背表紙のテーマで探すなら、『両極端に見えるものでも、素敵な共通項があったりしますよ』。

『relax』を読んでいた時のように、面白いものを見つけるヒントをたくさん与えられたようでうれしい。旅にはなかなか出られることは無いが、知らなかった本や映画との出会いは、旅先で景色を眺める気分ときっと似ていると信じている。

 本の中でも旅の途中で、偶然にも出会う事ごとに岡本さんは何かを思い出し、「昔は気付けなかったけれど、こういうことだったのか」と持っている本を読み返したり、考察し直したりする彼の時間の流れが、とても素敵だ。本文を借りるとするならば、読むという行為自体の楽しさに取り憑かれるのではなく、どうしてそれが気になっていたのかを解き明かし、どういうところに惹かれているのかをゆっくり掘り下げる時間。

 私自身そんなに記憶力がよくないのに、読書においては新しいものや今まで読んでなかったものを次々に読みたいという欲求が強く、これまで読んだ本もぼんやりとしか憶えていない。とても好きな本を年を経て何度も読み返し、その時に感じることや思い出すことなどを繋げていく読書も豊かだなぁと、読書の仕方を考えるきっかけになった。

 そして今月に入って『relax』ファンに朗報が!
 来年2月になんと特別復刊するそう。わりと話が大きくて不安ではあるけれど(面白いことは、あまり大きくないことの方が面白かったりするから)、『2016年のrelax』は、あの時代の『relax』とどんな繋がりを見せてくれるだろうか。今からとても楽しみである。

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HMV & BOOKS TOKYO 鈴木雅代
HMV & BOOKS TOKYO 鈴木雅代
(旧姓 天羽)
家具を作る仕事から職を換え書店員10年目(たぶん。)今は新しくできるお店の準備をしています。悩みは夢を3本立てくらい見てしまうこと。毎夜 宇宙人と闘ったり、芸能人から言い寄られたりと忙しい。近ごろは新たに開けても空けても本が出てくるダンボール箱の夢にうなされます。誰か見なく なる方法を教えてください。