『圏外編集者』都築響一
●今回の書評担当者●HMV & BOOKS TOKYO 鈴木雅代
職業柄たまにお会いするけれど「編集者の仕事とは?」と問われると、はっきりとそれを知らない。
本書を読んでから、編集者とはなんぞや的な文献や下調べをしなくて良かったと思った。私の考えていた「編集者」がここに居たから。そしてここに居るめちゃめちゃかっこいい編集者がなかなか居ないという事実も同時に知った。
出版社に就職して編集者になった訳ではない、いわゆるエリート街道ではない、編集術なんて無い、けれど唯一無二で突っ走る都築さんの、40年にわたる編集人生をものすごい熱量で語っている。今年初めに読んだ本がこの本で本当に良かった。
とにかく見たい、聞きたい、知りたいの原動力が大事で、そこからはやるしかない、動くしか方法はない。やるしかないの精神というより、気付かないうちに動いてしまう衝動のようなもの。
自分の嗅覚を育てる上で、いちばん手っ取り早い方法はそれだ。それは「自分の仕事を自分で作る」上でどの仕事にも通じることに思える。
そして同時に、自分が生きていく上で何を大事に思って生きていくか、根っこを確かめながら選択する作業にも通じる。
『編集者でいることの数少ない幸せは、出身校も経験も肩書も年齢も収入もまったく関係ない、好奇心と体力と人間性だけが結果に結びつく、めったにない仕事ということ』
これは都築さんの編集の仕事のことだけではなく、都築さん自身の根っことして大事に思っていることではないか。
本文中には何度も、「大手メディアの欺瞞」で読者に無用な劣等感を植え付けてはいけない、美学なんてどうでもいいが、見せたい写真や読ませたいテキストを読者と分かち合うことが大事、と語っている。
アカデミズムの閉鎖性を指摘し、大多数からどうしても飛び出てしまうひと=マイノリティを奇異な目で見ず温かい好奇心を持って掬い上げる人柄を感じるからこそ、都築さんの作った本はどの本を見ても読んでもじわっと泣けてしまうのだ。
通勤電車の乗った車両を意識してぐるり見回すのが私の朝の習慣だ。寝てる人、携帯、携帯、マンガ、携帯、携帯、携帯...。だれも本なんか読んじゃいない。
本書にある通り、出版業界は冬の時代からちっとも春を迎えない。町の本屋は次々無くなる。その反面、大きな新しいコンセプトの書店が出来たり(まさにうちの店こと)、本屋とコラボするカフェや洋服屋が増えるのは何故なんだろう。
本は読まれずに「本がそこにある」というスタイルだけが欲しいのではないかと疑ってしまう。
「出版を殺しているのは、その作り手である僕ら編集者だ」と初めに都築さんは言い切った。出版業界の端っこを担う本屋にもその責任は無いのか。
とにかくいい本、自分がこれだと思った本を売りたい。だれも本なんか読んじゃいないと嘆くヒマはないのだ。そこからはやるしかない、動くしか方法はない。
- 『みちづれ 短篇集モザイク1』三浦哲郎 (2015年12月17日更新)
- 『ここは私たちのいない場所』白石一文 (2015年11月19日更新)
- 『果てしのない本の話』岡本仁 (2015年10月15日更新)
- HMV & BOOKS TOKYO 鈴木雅代
- (旧姓 天羽)
家具を作る仕事から職を換え書店員10年目(たぶん。)今は新しくできるお店の準備をしています。悩みは夢を3本立てくらい見てしまうこと。毎夜 宇宙人と闘ったり、芸能人から言い寄られたりと忙しい。近ごろは新たに開けても空けても本が出てくるダンボール箱の夢にうなされます。誰か見なく なる方法を教えてください。