『LIME WORKS』畠山直哉
●今回の書評担当者●ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
日常の景観、ずれた。もう1つ、眼を与えられたみたいに。ビル1つ、紙1枚、見る意識が違う。『LIME WORKS』は私にとって、挑戦状。君にそれが出来るかい?と、問われている気持ちになる。君は、こうした眼を持てるかい?持ち続けられるかい?と。
『LIME WORKS』は日本各地の石灰石鉱山と、工場を写した写真集。練られた文章のように、写真集は白い空白にも、意図が潜んでいるように思う。なぜ、この文章が写真の隣にあるのだろう。畠山直哉さんの文章を手がかりに意図を探る。例えば「日本が石灰石の国であることを知ってから、都市の景観の意味が、僕の中で少し変化した。」という文章。問いへの応対は、すぐ傍の写真が示してくれる。
思慮深く写された写真は、どこか浮いている。けれど、揺らぎなく存在する。一歩一歩、丁寧に歩まれた軌跡をたどる度に、胸が熱くなる。
『LIME WORKS』そのものも、3度、変化を経験した。出版社が変わったのだ。畠山さんは『LIME WORKS』第3版出版を、あとがきにて「再生」と記した。「所を変えてこの本が再生する様子は、まるで著者とは別の意思を持つ動物でも見ているかのようだ」と。
叫びだしそうだった。胸震えた。どれほどの人が、思いがその「動物」を産み出したのだろう。
私は本屋の店員だ。本と人とをつなぐ、窓口だ。そして、窓口を閉める役割もする。品切れ重版未定、または絶版。その本は手に入りません、伝える度、お客様はがっかりして言う。「ジュンク堂さんなら有ると思ったのに。」胸えぐる一言。どんな形であれ信頼を裏切った私に対しての、正直な言葉。信頼1つ、出会い1つ、失った証。その喪失の大きさにいつも、私は呆然としてしまう。
だからこそ、復刊、再版の文字に胸震える。思いを拾い、叶えてくださった人がいる、窓口を開いてくれた人がいる。感謝してもしきれない。嬉しい。私はまた、窓口で踏ん張れる。ひとつでも多くの出会いがあるよう、日々、歩める。
喪失からの再生はきっと、とてつもない時間、人、力を必要とするだろうと思う。失ったものの大きさに呆然としながらも学びたい、前へ進みたい、と意思を抱いて起こるのだろう。その一端に私はなりたい。いつか「動物」の胎動を感じられるよう、努めたい。
- ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
- 1986年生。2009年、B1Fから9F、ビル1つすべて本屋のジュンク堂書店池袋店を、ぽかんと見上げ入社。雑誌担当3年目。ロアルド・ダール、夏目漱石、成田美名子、畠山直哉ファン。ミーハーです。座右の銘は七転び八起き。殻を被ったひよっこ、右往左往しながらも、本に携わって生きて死ねればそれで良いと思っています。