『僕は、そして僕たちはどう生きるか』梨木香歩

●今回の書評担当者●ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織

  • 僕は、そして僕たちはどう生きるか
  • 『僕は、そして僕たちはどう生きるか』
    梨木 香歩
    理論社
    1,728円(税込)
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 5月。中学時代の同級生が死んだ。享年24歳。
 会う度、私までつられて笑ってしまう、にかっとした笑顔の彼。
 どうしてだろう。素晴らしい人ほどはやく、奪われていく。私は明け方眠り、仕事に行き、笑い、いつも通り過ごす。這うようにでも。哀しみをやり過ごし、生きなくちゃ。
 でも、どうやって生きればいい? 地震後から繰り返し、自身に訊く。今はより強く、訊く。いまここに、命ある自分。一瞬を大事にしたい。
 では、その為にどうやって、これからを生きていけばいい?
 そんな時、2人のコペル君に出会った。
 1人は吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)のコペル君。もう1人は梨木香歩著『僕は、そして僕たちはどう生きるか』(理論社)のコペル君。
 中学2年生の多感な時期に、日常のふとした瞬間から、彼らは人間のいきかたを問われる。自身との対話を始めるのだ。
 本を開いても目は文字を追うばかり、内容がつかめない。そんな毎日の中でようやく、じんわり、胸に染み入った、本たちだ。
『君たちはどう生きるか』は、そっと頭をなでてくれる本だ。
 本の中でおじさんは言う。「僕たちは人間として生きてゆく途中で、子供は子供なりに、また大人は大人なりに、いろいろ悲しいことや、つらいことや、苦しいことに出会う。もちろん、それは誰にとっても、決して望ましいことではない。しかし、こうして悲しいことや、つらいことや、苦しいことに出会うおかげで、僕たちは、本来人間がどういうものであるか、ということを知るんだ。」
 『僕は、そして僕たちはどう生きるか』は、そっと寄り添ってくれる本だ。
 本の中で、コペル君は言われる。
「...泣いたら、だめだ、考え続けられなくなるから。」
 そして、彼は思う。「確かに、泣いている間はものが考えられない。よく、「泣きたいときは思いっきり泣け」とか言うけど、それは泣いていろんなものを発散させ、気持ちをすっきりさせる効用があるからだ。さもなくば甘い自己憐憫に浸る心地よさがあるからだ。(中略)そうだ、確かに泣いていたって何にも考え続けられない。今、僕に 必要なのは、気持ちをすっきりさせることじゃない。とにかく「考え続ける」ことなんだ。」
 いま、蹲りながらも、生にしがみつき、考えていくこと。それを垣間見せてくれた2冊に、深く感謝し紹介します。

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ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
1986年生。2009年、B1Fから9F、ビル1つすべて本屋のジュンク堂書店池袋店を、ぽかんと見上げ入社。雑誌担当3年目。ロアルド・ダール、夏目漱石、成田美名子、畠山直哉ファン。ミーハーです。座右の銘は七転び八起き。殻を被ったひよっこ、右往左往しながらも、本に携わって生きて死ねればそれで良いと思っています。