『ARRIVAL アライバル』ショーン・タン

●今回の書評担当者●ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織

 ふるえた。

『ARRIVAL アライバル 』ショーン・タン著

 一言もことばが出てこない、絵だけの絵本。とある、移民たちのはなし。

 表紙を開いて、心奪われた。動けなかった。表紙裏に描かれていたのは、50人の肖像画。1人1人、顔はみな違うけれど、表出する雰囲気は、どこか似ている。彼らは何を、想っているのだろう。カバーで人の顔は隠れてる。つい、めくってしまう。そのままカバー下の表紙を撫でて、どきどきした。凹凸のある、でこぼこした手触り。重厚な歴史書に触れているようだ。アライバルは、表紙からもう、始まっていた。

 1ページ、1コマ、1本の線からあふれてくるものに、のまれた。描かれる情景、人々の表情。慎み深く、深遠な世界。

 ことばは、記号でしかないのかもしれない。絵から伝わるニュアンスに、たまらず、想う。あまりにもおおきな出来事や、感情は、ときに言葉にならない。どれだけ言葉を尽くしても、現象に追いつけない。それに例えば、言葉にするのは、気持ちを整理するということにも繋がる。その行為が、現象そのものから、距離を作っていく。

 だからこそ、人は写真に胸打たれる。1枚の報道写真、その情報量に胸をつかれることもある。同時に、生々しく、正面から見ていられない時もある。

 アライバルは、写真のように生々しさを失わず、けれどことばのように距離を持って、絵がみせてくれる。幾つもの何だろう、をくれる。この生き物はなんだろう。この風景はなんだろう。移民となる気持ちは、どんなものだろう。疑問は、知りたい、の原動力になる。想像力は、自身を育てる力になる。その力を生み出す、あっけらかんとした、なんだろう、という疑問を、大人になって与えられるのが嬉しい。

 そっと、だれかに手渡したい。けれど、感想は必要ない。ことばにするよりも、読了後の顔がみられたら、私はきっと、満ち足りてしまう。そんな絵本です。

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ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
1986年生。2009年、B1Fから9F、ビル1つすべて本屋のジュンク堂書店池袋店を、ぽかんと見上げ入社。雑誌担当3年目。ロアルド・ダール、夏目漱石、成田美名子、畠山直哉ファン。ミーハーです。座右の銘は七転び八起き。殻を被ったひよっこ、右往左往しながらも、本に携わって生きて死ねればそれで良いと思っています。