『世界制作の方法』ネルソン・グッドマン
●今回の書評担当者●ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
読み終え、ほぅとため息がでた。
思い出した。読み応えがある本は、閉じた後、ため息が出るのだ。
今回紹介するのは『世界制作の方法』。
本書は著者ネルソン・グッドマンが、連続講義をするよう大学に招集されたことがきっかけに作られた。完成まで7年。何度も執筆、書き直しを経て、刊行された。和訳での発刊は1987年、私が手にしている文庫は2008年、ちくま学芸文庫に収められたものだ。20年以上前に記された本文章だが、内容は今も色褪せないように思う。
ただ、内容を伝えようにも、言葉に詰まってしまう。この本は哲学書です、と言い切って良いものか、悩むのだ。哲学に関して描いているのは間違いないが、内容は美学、現代数学などへの指摘も含まれる。本書について、著者は「近代哲学の主流に属すると考えている」と言う。そんな著者について、訳者は「論理実証主義の後継者だと言えば、とりあえずのかなり正確な答にはなるだろう」とする。考えている、や、とりあえず、とはなかなか曖昧だ。だか、確かにそういった本なのだ。内容に芯があり、良書だと思うのだけれども、分類は難しい。
例えば、グッドマンは本書で述べる。
「ハエだって、その羽の先端のどれかひとつを固定点とみなしそうにはない。ましてわれわれは、分子や具象体を日常世界の要素として歓迎したり、トマトと三角形とタイプライターと専制君主と大竜巻を単一の種にまとめることはしない。一方、物理学者はトマト以下のこうしたものをいずれも彼の基本粒子のうちに数え入れようとしないだろう。」つまり、「代替可能な世界をすすんで認める態度は、探求の新しい大道の通行を自由にし、そうした大道の所在を示唆するが、とはいえあらゆる世界をなんでも歓迎する態度からは何ひとつ世界は作り出されないことを付言しておこう。利用できる多くの座標軸を知っているというだけでは、天体の運行図はひとつも得られない。」と。
はて、これは哲学なのか。様々な事例が出され、1つ1つ、考え始めるときりがない。ただ、感じたことがある。日常生活でグッドマン同様に、様々な出来事を見て捉える瞬間や自身の思考に組み込む力は、とても大事なのではないか。
私は本屋の店員だ。それこそ、多種多様な事例、「本」を扱っている。渡す本が、誰かの人生にほんの少し、影響を与える。日々、それが誰かの手に渡る重さそのものに、ひやり、とする。同時に、望む人のもとへ、望む本が届くよう、手助けしたいと願う。その為には、「利用できる多くの座標軸」を増やすと共に、「天体の運行図」を描ける力を培っていきたい。私の視野は狭く、知識は浅い。日々何度もそれを、かみしめる。だからこそ、いまの考えも正しいと思わず、見て感じ、考えていきたい。
『世界制作の方法』そのものは難解で、読み終わるまで何度も頭を抱えた。けれど、つらつらと、自身を振り返り探求する機会をくれたのも、本書である。秋の夜長、物思いにふけるには、こんな本も、いかがでしょうか。
- 『花よりも花の如く』成田美名子 (2011年8月18日更新)
- 『ARRIVAL アライバル』ショーン・タン (2011年7月21日更新)
- 『僕は、そして僕たちはどう生きるか』梨木香歩 (2011年6月23日更新)
- ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
- 1986年生。2009年、B1Fから9F、ビル1つすべて本屋のジュンク堂書店池袋店を、ぽかんと見上げ入社。雑誌担当3年目。ロアルド・ダール、夏目漱石、成田美名子、畠山直哉ファン。ミーハーです。座右の銘は七転び八起き。殻を被ったひよっこ、右往左往しながらも、本に携わって生きて死ねればそれで良いと思っています。