『マチルダは小さな大天才』ロアルド・ダール
●今回の書評担当者●ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
ここに、仲間がいるよ。覗いてごらん。ただし、大人には内緒。
ロアルド・ダールの著作は、そう言ってお子様に薦めたいものばかりだ。大人しそうな外見に反して、好奇心が滲み出て目がきらきら、光っている方に差し出したい。それは、体は成長しても、心に子供を大切に抱える方々も、一緒。
ロアルド・ダール作品は、ドラえもんみたいなのだ。何かが変化しても、根本的な部分で子供心を捉えるものは、変わらない。ユーモアたっぷりに、さぁ、どんな面白いことをしたんだい?と、こちらをつついてくる。
『マチルダは小さな大天才』は、中でも印象深い一冊。
小学生の私にとって、衝撃の一冊だった。
物語の主人公、マチルダは5歳の天才少女。4歳時には『老人と海』等の名著を読みこなし、3桁の掛け算を一瞬で解ける。けれど、残念なことがひとつ。両親は、マチルダの才能に気づかないのだ。むしろ、そんな彼女をかさぶたのように、いつかぷっと飛ばす日を待ち望む。マチルダの言葉を両親は汲み取らない。時には、彼女が読んでいる本を破り捨ててしまう。
そんな両親のような大人がマチルダを侮辱する度、彼女はいたずらを仕掛け、対抗する。
その、いたずらの面白さ。初めて読んだ小学生の私は、大興奮。読了後、家中の時計を一時間遅らせ、家族に叱られたのも今ではいい思い出だ。いたずらは、相手とやりかたを選ばないといけない。
マチルダのいたずらに通じるものを感じた作品は、金城一紀著の<ゾンビーズシリーズ>や、有川浩著の『キケン』。<ゾンビーズシリーズ>は、マチルダ同様、相手は大人。『キケン』では、相手は機械、サークル活動。どちらの作品もユーモラスさと冒険心を持った少年たちが登場する。読む度、女子の私は地団駄を踏んでいた。
いいなぁ、いいなぁ。でも、この集団には混ざれない。私は、私で、何ができるのだろう?
そんな挑む気持ちは今も、私の中にある。
さぁ、自分にそれが出来るかな?
煮詰まった時、あえて、自身に問いかける。ユーモラスな解決策は、実は傍にあるかもしれない。解決策を探すのは、面白いことを探すのと、根本的には変わらない。
さぁ、何か見つけられるかな? 挑発する自分も楽しんで、読んで頂ければ幸いな一冊です。
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- ジュンク堂書店池袋本店 福岡沙織
- 1986年生。2009年、B1Fから9F、ビル1つすべて本屋のジュンク堂書店池袋店を、ぽかんと見上げ入社。雑誌担当3年目。ロアルド・ダール、夏目漱石、成田美名子、畠山直哉ファン。ミーハーです。座右の銘は七転び八起き。殻を被ったひよっこ、右往左往しながらも、本に携わって生きて死ねればそれで良いと思っています。