『反骨の画家 河鍋暁斎』狩野博幸、河鍋楠美
●今回の書評担当者●ブックス・ルーエ 花本武
新潮社とんぼの本で、先頃刊行された「反骨の画家 河鍋暁斎」。かなりグッと来たので今回はこれでいきましょう。
河鍋暁斎は江戸時代の終焉から明治にかけての日本の変革期を生きた偉大なアーティストです。その真価を見出しリスペクトしてやまなかったのは、海外の目利き達でした。そのため作品もかなりの数が流出してしまっているようです。暁斎の雅号「画鬼」を直訳して大英博物館で催された展覧会タイトルは「デーモン・オブ・ペインティング」。この本で画業と人生を俯瞰すると、これ以上なく相応しい称号のように感じられます。
一番弟子で最期を看取ったのが大物外タレアーティストのコンドル(鹿鳴館を設計したりした人)だったことも彼の凄みと微妙な立ち位置を察することができます。グローバルな評価を得る一方、国内では冷遇されがちだったのは、どうしてなのか?日本人の気質として暁斎のように多彩すぎると器用貧乏に見られてしまう傾向もありましょう。でももっと本質的な部分で彼の絵は、おもしろすぎたのではないでしょうか?
例えば「放屁合戦絵巻」という作品があります。これはもうタイトルままで、半裸あるいは全裸の男たちが尻丸出しでおならを繰り出し合い、死闘を演じている様子が漫画チックに描かれています。漫画チックというか要は漫画なのでしょう。当時の人々はきっとゲラゲラ笑って消費したこととおもいます。芸術に「笑い」の要素を込めることが当たり前のようになっている現代美術のシーンを踏まえれば、ようやく評価の気運が高まってきた現状に大いに頷けます。つまり暁斎は、早すぎたということなんだとおもいます。
暁斎の魅力を語るうえで、タイトルにも冠される「反骨」は、重要なキーワードです。「無頼」と言い換えてもいいかもしれません。明治新政府がマジギレしてしまい入牢のきっかけになったとされる絵は政府高官を揶揄した春画だったようです。現代の漫画「ムダヅモ無き改革」は政治家達を麻雀で対決させたものですが、暁斎は成人漫画にしてしまったわけで、これはかなり過激な表現だったはずです。怒られるのもむべなるかなといったところでしょうか。
ところで多彩な画風を誇る暁斎のこと当然春画も凄かったわけですが、私としてはチラリズムのエロ表現に心酔いたします。「美人観蛙戯図」ではしゃがみこんで蛙たちを見守るいい女が描かれています。その脛が!なんともフェチックにちょっとだけのぞいてるんです。「横たわる美人と猫」では今度は腿が!! これはたまりません。
相当の酒豪でもあったようで、4m×17mの大作を酒をあおりながら4時間で完成させた逸話にも暁斎の破格を感じます。誰にもマネできないことをやる男。デーモン・オブ・ペインティング。河鍋暁斎。
付記。より大きな図版で暁斎を楽しみたい方には平凡社別冊太陽の「河鍋暁斎 奇想の天才絵師」をおすすめいたします。最初の師匠、国芳や影響色濃い先達である蕭白、若冲の再評価を促したちくま文庫、辻先生の「奇想の系譜」「奇想の図譜」は基本図書です。必ず読みましょう。
- 『にっぽん祭り日』森井禎紹 (2010年7月8日更新)
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- ブックス・ルーエ 花本武
- 東京の片隅、武蔵野市は吉祥寺にてどっこい営業中のブックス・ルーエ勤務。通勤手段は自転車。担当は文庫・新書と芸術書です。1977年生まれ。ふたご座。血液型はOです。ルーエはドイツ語で「憩い」という意味でして、かつては本屋ではなく、喫茶店を営んでました。その前は蕎麦屋でした。自分もかつては書店員ではなく、印刷工場で働いていて、その前はチラシを配ったり、何もしなかったりでした。天啓と いうのは存外さりげないもので、自宅の本棚を整理していて、これが仕事だったらいいなあ、という漠然とした想いからこの仕事に就きました。もうツブシがきかないですし、なにしろ売りたい本、応援したい作家に事欠かないわけでして、この業界とは一蓮托生です。