『ふうとはなとうし』いわむらかずお
●今回の書評担当者●ブックス・ルーエ 花本武
先日初めて、お客様から、ウェブ本の雑誌の書評、読んでますよ、と声をかけられて、どこまでも舞い上がりました。さあ、どしどしいきましょう。
サブカル路線がすっかり定着した感もありますけど、今回は絵本。童心社さんの「ふうとはなとうし」です。14ひきシリーズでおなじみのいわむらかずおさん待望の新シリーズ一発目が本書。
ふうとはなは野うさぎの兄妹です。青いチョッキのお兄さん「ふう」。ピンクの妹「はな」。あそびたいざかりです。野はらにくりだす二人にお母さんは、誰か来たらじっとしてなさい、と心配そう。このあたりの描写が実はリアリズムに基づいていて、子供の野うさぎは、お母さんとおちあう場所を約束しといて、単独行動をとるそうです。いわむらさん自身アトリエを里山の自然に囲まれたところにかまえてらして、野原でじっとしている野うさぎの子供に遭遇したことがあるとか。ふむふむ。
ふうとはなが野はらをかけだすところの絵がすごくいいです!昨今の漫画にあるような動きを感じさせる書き方ではなくて、不意の一瞬をランダムに切り取って定着させたような独特な雰囲気があるのです。(って説明が全くできていないとおもうので、ご覧になってください)とにかく大きくジャンプしている二人。ふうの表情にあんまり「わーい」って感じがないのがリアルで、それがランダムに切り取った静止画という印象なのです。
お母さんの心配は的中。二人の近くに誰かがきます。言いつけどおりにします。いよいよ近づいてきますが、二人は動きません。いや、動いてないようにおもうかもしれません。でもふうは動いているんです!この絵本においてふうとはなの二人は違うことをする場面がほぼありません。そう、この何者かの接近が迫るところでのみ、二人の動きは異なる。お兄さんのふうは、妹はなを守ろうと左手で牽制するのです。かっこいいゾ、ふう!なんやかやで、正体は気のいい牛のおばさんだったわけでして、お腹に赤ちゃんがいることを知ったときの反応もやっぱり同じで、二人は一緒に「ぴょん」とはねたりするんですけどね。
そして牛のおばさんのあったかいお腹でひるね。お母さんのところに帰ってきた二人は今日の出来事を語って、おっぱいをのんでぐっすり眠ります。もう、おひるねをしてもぐっすり眠っちゃう二人がかわいくて仕方ありません。本当に素晴らしい絵本です。私はこの一カ月くらいで何度繰り返し読んだか、数えるのもバカバカしいくらいです。極めて個人的な事情で気が滅入っていたせいかもしれません。いや、絶対そうなんですが、この絵本を読むことでどうにか精神のバランスをとっていたと言っても過言ではありません。絵本の力は侮れませんよ。
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- ブックス・ルーエ 花本武
- 東京の片隅、武蔵野市は吉祥寺にてどっこい営業中のブックス・ルーエ勤務。通勤手段は自転車。担当は文庫・新書と芸術書です。1977年生まれ。ふたご座。血液型はOです。ルーエはドイツ語で「憩い」という意味でして、かつては本屋ではなく、喫茶店を営んでました。その前は蕎麦屋でした。自分もかつては書店員ではなく、印刷工場で働いていて、その前はチラシを配ったり、何もしなかったりでした。天啓と いうのは存外さりげないもので、自宅の本棚を整理していて、これが仕事だったらいいなあ、という漠然とした想いからこの仕事に就きました。もうツブシがきかないですし、なにしろ売りたい本、応援したい作家に事欠かないわけでして、この業界とは一蓮托生です。