『やめないよ』三浦知良

●今回の書評担当者●ブックス・ルーエ 花本武

 何だか自分でも意外なんですが、小学生の頃から割合と真剣に取り組んでいた部活動があります。サッカーです。高校でも続けておりました。小、中と所属していたチームが、区内ではトップクラスで、ほとんど常にベンチウォーマーでした。少し迷って高校でもサッカー部に入りました。そこでは比較的容易に頭角をあらわすことができました。チームのレベルがそこそこだったからです。俄然練習も楽しくなり、実戦経験も積めて、巧くなり、力がついてきたことを実感できるようになりました。ひたすら自主的なトレーニングもして体をいじめました。その挙句に練習試合で、靭帯を切ってしまいました。サッカーに賭けていた時期だったので焦りました。一刻も早く治して復帰したいとジリジリします。それがまさに命とりで、治りかけで練習再開、同じところを痛める。それを何度か繰り返してしまい、入院したうえで手術するまでに悪化しました。手術は成功したものの、全速力で走ることと正座ができなくなりました。でも問題はメンタルでした。サッカーとの蜜月があまりに短かったことを嘆き、憂い、心をふさぐことになりました。

 とゆう暗い話はさて置いて、とうとう出ました!三浦知良「やめないよ」前作「おはぎ」とはうってかわって明朗なタイトル!カズさんの本質が平仮名たった5文字にあますとこなく集約されてます。見事なタイトルワーク!

 カズさんはよくキング・カズと呼ばれますけど、それには一抹の揶揄が含まれているように感じられるのでぼく自身は、「カズさん」でいきたい。本の中でカズさんがキング・カズと呼ばれるエピソードが二回だけあります。その相手はイチロー選手と原辰徳氏ですよ。認め合うプロ中のプロ同士が気安いノリでキング呼ばわりは、いいんですけどね。

 見開き1ページ分の短いコラムがカズさんの現状の定点観測のようになってまして、大抵締めの3行くらいでもの凄いパンチラインが放たれます。抜き出せばキリがないほどカズさんの言葉にはどれもハッとさせられます。カズさんが言えば「一生懸命」という大文字の言葉にも真実味がこもる。そしていかなる立場からサッカーに関わる人に対しても謙虚な姿勢には頭が下がります。それはひとえにサッカーへのリスペクトと言えることでしょう。

 カズさんはサービス過剰な人でもあります。そもそもあのカズダンスにしろ「おはぎ」にしろユーモアのセンスは常人離れしたものがあります。大真面目なコラムの中でちょいちょいお茶目なところを見せるのがカズさんの真骨頂。夜の六本木方面でのお遊びについて、(笑)とか使ってさらっと書いてたりするのも笑えます。

 それはそれとして、カズさんが本書で繰り返し説いているのは、プロとしてのあり方です。サッカー選手やアスリートに限ったものではない。広く普遍的に活用できるプロ論として誰もが傾聴に値するものだとおもいます。学べることは、多い。

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ブックス・ルーエ 花本武
ブックス・ルーエ 花本武
東京の片隅、武蔵野市は吉祥寺にてどっこい営業中のブックス・ルーエ勤務。通勤手段は自転車。担当は文庫・新書と芸術書です。1977年生まれ。ふたご座。血液型はOです。ルーエはドイツ語で「憩い」という意味でして、かつては本屋ではなく、喫茶店を営んでました。その前は蕎麦屋でした。自分もかつては書店員ではなく、印刷工場で働いていて、その前はチラシを配ったり、何もしなかったりでした。天啓と いうのは存外さりげないもので、自宅の本棚を整理していて、これが仕事だったらいいなあ、という漠然とした想いからこの仕事に就きました。もうツブシがきかないですし、なにしろ売りたい本、応援したい作家に事欠かないわけでして、この業界とは一蓮托生です。