『未来ちゃん』川島小鳥
●今回の書評担当者●ブックス・ルーエ 花本武
未来ちゃんは祝福された未来の希望そのものだ!
もう無邪気な時代はある意味、終わった。ぼくたちは、個人レベルでそれぞれ危機感、不安を抱えたまま、日々をやりすごし、束の間の愛を受け入れたり、誰かの愛にすがろうとしたり、はたまた憎むべきではない相手を罵ったりもするだろう。芸術は可能か?そう自問し、残した者に課題を与えた芸術家もいた。その解答は芸術として提示できるものか。強度のある表現。あるだけでデカイという感じの。求めているのは、理屈ではない。瞬発力と即効性。みんな待っていた。君に会えてよかった!未来ちゃん!!
写真は、どこでもドアのような発明。すぐに会いにいけるように、ページを開け。そこに君がいることがどれだけの人間のエナジーとなるか、君はきっと知らない。でもぼくらも大事なことをすぐに見落とす。例えば、写真の中の君は、もう過去の君でしかないこと、とか。近い将来、君はこの写真集を発見するだろう。その時を想像する。やや遠い将来には、大事な出会いが数回あるはずだ。その際には、鼻をよくかんでおいて。ぼくに出来るアドバイスはそのくらいかな。
「真夜中」で初めて未来ちゃんに遭遇したときの鮮烈な衝撃は、今なお忘れがたい。このコはいったいどうしたことか!?と。大袈裟だけど世界の仕組みの核心をついてしまったような、禁忌にも似た畏敬の念にも近いような、体の芯を揺さぶる写真だったのだ。その感覚は、あまりに不慣れで異質だったので、追求することを断念せざるをえなかった。一方で、ほっておいてもあの写真はクルという確信も抱いた。
じわじわと情報はもれてきた。川島小鳥という若い写真家がものした作品であること。モデルは離島で暮らす女の子で、写真家はかなりの時間を彼女と家族同然に過ごすことで、信頼関係にあることなど。そして何よりあの「BABYBABY」の人じゃないか、川島小鳥と言えば!!と知ってものすごい腑に落ちた!!!というわけでそっちもこのほどめでたく復刊したので、注目していただきたい。長らく入手困難だった川島さんのデビュー作で、やはり一人の女の子をフィーチャーしている。被写体との距離感がどーなっとるのか?と考えさせる作風はもうこの時に確立されていることがよくわかる。
そうこうしていたら今度はブルータスで未来ちゃんが表紙を飾った。この段階でもうほっとけなくなった!あらゆる人に未来ちゃん、未来ちゃんと喧伝し、頼まれもせずネットでつぶやき、未来ちゃんがいかに素晴らしいか問うてまわった。その記事の中で、川島さんは、子供には自分の人生に集中してもらうのが一番、と言う。被写体に真摯に向き合う姿勢がポップかつ格調高い作品として結実しているのだ!
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4月いっぱい、ブックス・ルーエでは未来ちゃんのパネル展示をやっております。松本典子さんの「野兎の眼」との奇跡のジョイントが実現してます。みんなおいでよ。
- 『身体のいいなり』内澤旬子 (2011年3月10日更新)
- 『やめないよ』三浦知良 (2011年2月10日更新)
- 『武智鉄二という藝術』森 彰英 (2011年1月13日更新)
- ブックス・ルーエ 花本武
- 東京の片隅、武蔵野市は吉祥寺にてどっこい営業中のブックス・ルーエ勤務。通勤手段は自転車。担当は文庫・新書と芸術書です。1977年生まれ。ふたご座。血液型はOです。ルーエはドイツ語で「憩い」という意味でして、かつては本屋ではなく、喫茶店を営んでました。その前は蕎麦屋でした。自分もかつては書店員ではなく、印刷工場で働いていて、その前はチラシを配ったり、何もしなかったりでした。天啓と いうのは存外さりげないもので、自宅の本棚を整理していて、これが仕事だったらいいなあ、という漠然とした想いからこの仕事に就きました。もうツブシがきかないですし、なにしろ売りたい本、応援したい作家に事欠かないわけでして、この業界とは一蓮托生です。