『Q&A』恩田陸

●今回の書評担当者●本のがんこ堂野洲店 原口結希子

 初めまして、こんにちは。本のがんこ堂の原口と申します。どうぞ宜しくお願いします。

 先月本屋大賞が発表されましたね。「直木賞とダブル受賞ってどうなん?」なんてご意見をいただくこともありますが、投票した書店員の一人としてお答えいたします。
 すみませんでした!
 でも恩田陸だからセーフじゃないですか!?

 ひらきなおっているわけではないのですが、どうぞ考えてみてください。前世紀のデビューから二十数年、これほど長く、コンスタントに、数多くの作品で楽しませてくれている現役作家はそう多くはありません。第二回本屋大賞受賞の記憶も鮮やかな多くの中年書店員にとっては「昔から応援してたんやでー」という肩入れの対象でもあり、読者としても本屋としても愛してやまないその作家の文句なしの傑作ときたら、この結果に不思議はありません。

 受賞効果も抜群です。既刊作品点数の多い作家のブレイクは書店にとってとてもありがたいもの。受賞作を読んだお客様が「これも面白い、あれも読みたい」とどんどん手を伸ばしていく様子をレジで眺めていられるのは、本屋冥利に尽きることです。そんな何度目かの恩田陸ブームのさなか、『蜜蜂と遠雷』よりもっと面白い、もっと売りたい、もっともっと読んでもらいたいのが、今回ご紹介する世紀の傑作『Q&A』です。

 質疑応答の答部分だけで構成されるこの物語は、冒頭から不穏な空気を孕んでいます。何か非常に良からぬことが起き、何人もの人間が傷ついた事件があったことを巧みに匂わせながら話は進んでいきます。幾つもの視点から語られる情報は、はっきりとした全体像を結ばせず、細部で起きていた異常や小さな悪についての描写が積み上げられるにつれて、「この事件の中心ではいったいどれほどの異常で邪悪なことが起きていたのだろう」という寒けがするほどの恐怖を伴う強烈な好奇心を読者の心中に生じせしめます。しかしその好奇心は満たされません。恐らく本作は謎解きミステリではなく、人間の悪とその償いの物語なのでしょう。理不尽な大量死から、贖罪のような個人の死へと、ピントが絞られる最後の情景を無惨とみるか救済とみるか。読み手の心を刺してくるような、現代日本文学の最高峰だと思います。

 今回本屋大賞が本当ならライバルである筈の直木賞の跡をたどる結果になったこと、書店員としては不甲斐ない、申し訳ないという気持ちもすこしあります。反省してます。投票したほかのみなさんもしてると思います。今後はもっとマイナーな作品にも日の目が当たるように頑張らなくてはいけません。こんなことはもうないです。ないんじゃないかな。まぁ心の片隅には覚悟しておいていただけませんでしょうか。とはいえ、本を読むついでに生きているような全国の本好き書店員たちの愛とハッスルがじめーっと輝く不思議なお祭りが本屋大賞です。来年もどうぞお楽しみに!

« 前のページ | 次のページ »

本のがんこ堂野洲店 原口結希子
本のがんこ堂野洲店 原口結希子
宇治生まれ滋賀育ち、大体40歳。図書館臨職や大型書店の契約社員を転転としたのち、入社面接でなんとか社長と部長の目を欺くことに成功して本のがんこ堂に拾ってもらいました。それからもう15年は経ちますが、社長は今でもその失敗を後悔していると折にふれては強く私に伝えてきます。好きな仕事は品出しで、得意な仕事は不平不満なしでほどほど元気な長時間労働です。 滋賀県は適度に田舎で適度にひらけたよいところです。琵琶湖と山だけでできているという噂は嘘で、過ごしやすく読書にも適したよい県です。みなさんぜひ滋賀県と本のがんこ堂へお越しください。60歳を越えた今も第一線に立ち、品出し、接客、版元への苦情などオールマイティにこなす社長以下全従業員が真心こめてお待ちしております。