『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』ウンベルト・エーコ/ジャン=クロード・カリエール
●今回の書評担当者●ブックデポ書楽 長谷川雅樹
『蜜蜂と遠雷』(恩田陸・著/幻冬舎)が直木賞とのダブル受賞で話題となった、本屋大賞2017。あの発表から数カ月、「本屋大賞2018」の受賞作を決めるための一次投票が、はやくもこの11月よりスタートしました。
じつは今回自分が1位投票をしようと考えている書籍は既に心に決めており、今回その書籍がいかにスゴいか、お客様に読んで頂きたいかの推薦文を書こうかと思っていたのですが......半分くらい書き進めていたところで「ああそうだ、誰とも相談なしで投票するのが業界の習わしだった」と今更気づき、途中で書くのをやめてしまったんですね(ちなみにその本は『太鼓判コーナー』なるコーナーで現在も大展開しておりますので、当店に来て頂ければどの本かはわかります、ぜひお越しください(宣伝))。
代わりにどの書籍を題材に書かせていただこうかと考えたところ、最近読んだ本で抜群に面白かった、第27回鮎川哲也賞受賞作『屍人荘の殺人』(今村昌弘・著/東京創元社)がいい、これで書かせていただこう! と思っていたところ、今度はこの本が何を書いてもネタバレになり、書こうにも何も書けないという状態に(泣)。これまでにない驚愕のミステリ、死と常に隣り合わせのクローズド・サークルのサスペンスをぜひ味わって頂きたいので、こちらぜひ読んで頂いて私と感想を語り合いましょう。当然のことながら新人作家さんです。応援したい。
さて、そんなわけで原稿の締め切りも迫るなか何も書けなくなってしまい、「嗚呼こりゃダメだ、自分には刺激、インスパイアが必要だ」と出かけたのが、11月3日から5日で行われた「第27回 神保町ブックフェスティバル」でございます。
このイベントがどういうイベントかは「WEB本の雑誌」をお読みになられている皆様ならご存知かと思われますので割愛しますが、今回も熱気がすごかった。新品の本が半額以下で売られていたり、一般的な書店では入手困難な本がびっしりと並べられていたりする各社ブースにお客様が朝から晩まで殺到、出版不況なんて嘘なんじゃないかと錯覚するような盛況ぶり。くらくらしました。
新刊書店で働く私としては再販制度や委託販売制度などの在り方、出版業界の未来について等いろいろ考えさせられるイベントではありますが、それは置いといて、なによりネットではなくて現場で売り場に並べられた本を選ぶのが楽しいと思ってくださっているお客様がこんなにもいらっしゃるということに、自らの仕事ももっと頑張んなきゃいけないなあと思った次第です。「ブックフェスは最高だ!でも、新刊書店だってこんなにおもしろいぞ!」と、自信を持ってお客様に棚をご覧いただけるように。世界文学の棚とか、もっと頑張らないとなあ......。
そんなわけで(どんなわけだ)神保町ブックフェスにインスパイアされ、本日皆様にご紹介したいと考えたのが『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(ウンベルト・エーコ, ジャン=クロード・カリエール・著/CCCメディアハウス)です。
2016年惜しくも亡くなられた『薔薇の名前』でおなじみのウンベルト・エーコさんと、フランスの俳優であり脚本家でもあるジャン=クロード・カリエールさんとの、本に関する対談をまとめた本。知の巨人・エーコさんが語る本の効能、歴史、紙の本への愛しさなどがギュッとつまったこの本は2010年に出版されたものですが、今読んでもまったく色褪せないのがスゴイ。読み終わったあなたはきっと「電子書籍? 強いよね。手軽さ、値段、収納力、隙がないと思うよ。だけど......紙の本は負けないよ。」と自信を持って言えること間違い無しであります。
そもそも正直に申し上げてですね、電子書籍の話があんまり出てこないです(笑)「『本』はスゴい」という強烈な印象だけが残ります。でもそれが素敵なんですよね。また「エーコさんはすべての本を読んでいるんですか?」という質問に「サッカレーの『虚栄の市』は読みかけてやめた、そういう本は沢山ある」と答えるエーコさんにホッとしたりするのも、この本の面白いところ。楽しく読めます。
訳者の工藤妙子さんのあとがきが秀逸で、こちらも名文なのでぜひお読み頂きたい。ちなみに2011年の第45回造本装膜コンクールで文部科学大臣賞を受賞しているほどの素晴らしい装丁。ジャケ買いでも満足できるはず、ぜひどうぞ。
- 『六号病棟・退屈な話(他5篇) 』チェーホフ (2017年10月12日更新)
- 『QUIZ JAPAN』 (2017年9月14日更新)
- 『今日のヒヨくん』やまもとりえ (2017年8月10日更新)
- ブックデポ書楽 長谷川雅樹
- 1980年生まれ。版元営業、編集者を経験後、JR埼京線・北与野駅前の大型書店「ブックデポ書楽」に企画担当として入社。その後、文芸書担当を兼任することになり、現在に至る。趣味は下手の横好きの「クイズ」。書店内で早押しクイズ大会を開いた経験も。森羅万象あらゆることがクイズでは出題されるため、担当外のジャンルにも強い……はずだが、最近は年老いたのかすぐ忘れるのが悩み。何でも読む人だが、強いて言えば海外文学を好む。モットーは「本に貴賎なし」。たぶん、けっこう、オタク。