『整形前夜』穂村 弘
●今回の書評担当者●有隣堂アトレ新浦安店 広沢友樹
4月24日(金)リブロ渋谷→リブロ池袋→Café LIBRO
穂村弘の「現実入門」を手渡されて、読んでみてと言われたので読んでみました。
面白い。男性の弱さと脆さが全面に押し出されていて。あと正直。こういう人が歌人になるのだなあと納得しました。歌人っていったいどうやってなるもので、どうやって生計を立てているんでしょうか?謎です。たぶん仮の職業を全うしているのでしょうね。ある日突然、「私、実は歌人なの」と言われるかと思うとドキドキします。
そんなことがあった数日後、売場で大好きな季刊文藝を見に行くとなんと特集穂村弘。その後、新刊「整形前夜」も店に届く。波がきてる。メジャーへの波が!!(失礼ですね。ごめんなさい。でもこういう感覚が好きで大切にしているんです。)さっそく新刊を渋谷のルノアールで読んでみました。
穂村さんの魅力は、社会生活においてなかなか口にできない状況と気持ちをはっきり言葉に表してくれるところです。それがとてもユーモアに富んでいます。47歳になろうとしている男性が、こんなにもヘタレでいいのかとほとんど全編を通して感じさせてくれるところに安心があります。たとえば、原稿の〆切が近付けば、「全然手をつけていなくて、書ける気がしなく、何からやっていいのかわからなく、吐きそうなんです」「なんか、赤い舌みたいのが、眠」とメールで訴えたい衝動に駆られ、自分のトークイベント&サイン会が終われば、その夜評判を検索し、伸ばし始めた髭について、「似合っていない」「キモイ」「変」に耐えたあと「髭がまばら」の文字にもがいてみたり...。しみじみととても感じ入るものがあります。
しかし、これが短歌やコトバの話題になると途端にカッコいい穂村弘に生まれ変わります。
明晰にして深い考察が始まるのです。
詩歌は「共感(シンパシー)」よりも「驚異(ワンダー)」との親和性が高い。だから敬遠される。驚異の源にあるものは未知性の親玉たる「死」であろう。(「共感と驚異」より)
詩とか俳句とか短歌って読まれてないなあ、と思う。という一文で始まるこの章では、歌人である自分でも「わかる」と感じるものは、世の中の短歌の60%、俳句25%、現代詩10%ほどだと言っています。
ちょっと眼が覚める感じがしました。プロでも「わからない」のが普通という言葉に。
でもそんななかで、季刊文藝において東直子さんが紹介されていた穂村さんの短歌に僕はとんでもなく衝撃を受けたのです。
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
世界が、空間が、ありありと眼前に広がってストーリィが動き出すようです。
今日は「Linemarkersラインマーカーズ」を探しに書店めぐりです。
専門書店「ぽえむぱろうる」がなくなって久しいですが、その意思を継ぐリブロ渋谷店と池袋店に足を運びました。このサイトの矢部潤子さんの連載「坂の上のパルコ」は素敵です。
- 有隣堂アトレ新浦安店 広沢友樹
- 1978年東京生まれ。物心ついた中学・高校時代を建築学と声優を目指して過ごす。高校では放送部に所属し、朗読を3年間経験しました。東海大学建築学科に入学後、最初の夏休みを前にして、本でも読むかノと購買で初めて能動的に手に取った本が二階堂黎人の「聖アウスラ修道院の惨劇」でした。以後、ミステリーと女性作家の純文学、及び専攻の建築書を読むようになります。趣味の書店・美術展めぐりが楽しかったので、これは仕事にしても大丈夫かなと思い、書店ばかりで就活を始め、縁あり入社を許される。入社5年目。人間をおろそかにしない。仕事も、会社も、小説も、建築も、生活も、そうでありたい。そうであってほしい。