『三国志男』さくら剛
●今回の書評担当者●精文館書店中島新町店 久田かおり
ある人が言った。「世界を見れば日本が分かる。歴史を知れば今が分かる」と。そうか、そうだったのか。最近新聞を騒がせている"後期高齢なんたら"とか"ガソリン税かんたら"という中央の方々がやろうとしている事がさっぱり分からないのは、私が地図の読めない歴史音痴だったからなのか。ならば知ってやろう。世界も歴史も一度に学んでやろう。そのために一番良いテクストはどれだい。と言う訳で選んだのがコレ。
さくら剛作『三国志男』。近くて遠い謎の国、中国に、しかも多分日本人の約75%がその名前は知っているという『三国志』に魅せられたオトコの血と涙と汗にまみれた超感動旅エッセイだ。
『三国志』と聞いた時に、人によって思い浮かべるモノは様々で。例えば横山作品、吉川作品、宮城谷作品、あるいはコーエー作品。もしかすると昔TVでやっていた人形劇三国志なんかも浮かぶかも知れない。ちなみに2年早く生まれたってだけで、ジュース汲んで来いやらリモコン取れやらバービーを散歩に連れて行けやらと私をメイドの如くこき使いまくっていたうちの兄もこの人形劇三国志に魅せられた一人なのだけれど。
中国語が全く話せないというハンデを背負ったさくら氏が七転八倒しながら行く先々で悪態をついたり「歴史的遺跡」に怒涛の突っ込みを入れまくったりするこのエッセイが、読後ある種の爽やかさをもたらすのは、罵詈雑言の奥に中国へのそして三国志への"愛"がこんもりと山になっているからだろうな。いや、愛というより偏愛か。
けど第1作でインドへ行った時や第2作でアフリカ縦断した時も何度も死にかけながら暴言吐いてたなぁ。あれも愛だったのか...
とにかく1日24時間中20時間をネット上で過ごすという正真正銘の引きこもりヲタが、普通の人でも途中でリタイアするであろう(と言うか最初から絶対行かない)過酷な旅を全うしちゃうのがすごいよね。「引きこもりのヲタ」と言いながら実は多国語を操るエネルギッシュなイケメンだったりして。
とにかくこれを読めばグローバルでマクロな視野が手に入る、かも知れない...入るといいな...いや、入らないかな。うん、入らないな絶対。けれど何かが変わった気がする。気のせいかも知れないけれど。
結局今の日本を理解する事は出来なかったけれど、今のインドや中国やアフリカの驚くべき実体の一部を覗く事が出来たからよしとするか。
【追記】今回この本を取り上げようと決めた数日後、四川が未曾有の大震災に襲われた。亡くなられた多くの方のご冥福と、一刻も早い復興を心から祈っております。
- 『のぼうの城』 (2008年5月8日更新)
- 精文館書店中島新町店 久田かおり
- 「活字に関わる仕事がしたいっ」という情熱だけで採用されて17年目の、現在、妻母兼業の時間的書店員。経験の薄さと商品知識の少なさは気合でフォロー。小学生の時、読書感想文コンテストで「面白い本がない」と自作の童話に感想を付けて提出。先生に褒められ有頂天に。作家を夢見るが2作目でネタが尽き早々に夢破れる。次なる夢は老後の「ちっちゃな超個人的図書館あるいは売れない古本屋のオババ」。これならイケルかも、と自店で買った本がテーブルの下に塔を成す。自称「沈着冷静な頼れるお姉さま」、他称「いるだけで騒がしく見ているだけで笑える伝説製作人」。