『ボクナナ!』岡田 慎一
●今回の書評担当者●精文館書店中島新町店 久田かおり
中学3年の夏休みって、何をやってたかなぁ。
確かその夏でクラブ(ハンドボール)引退だから最後の試合への練習に明け暮れていたな。
今でこそイケメンアスリートno.1の宮崎くんのおかげでメジャースポーツの仲間入りしたハンドボールだけど、ほんの数年前までは日本のそこここで
「学生時代何かスポーツやってた?」
「えっ、ま、その、球技 かな」
「バレー?バスケ?あぁテニス?」
「ううぅ、ん~まぁそんな感じ...かな」
的な会話が交わされていたはず。ハンドボールをやっていたと答えるのは切手を集めるのが趣味と言うのと同じくらいマイナー感溢れる宣言だったりする、いや した。
宮崎くんありがとう。全国13万のハンドボーラーに代わってお礼を言います。
そしてクラブを引退した後は、目の前には「受験」の二文字が視力検査の一番上くらい大きく見えてくるのだ。
今まではクラブを盾に勉強をサボっていたみんなが一斉に塾通いなど始めたりして。
楽しいことは春までお預け。そんな空気が充満し始める夏休みの少し前、気持ちの切り替えが上手くできない不器用なヤツラは置いてきぼり感を味わいつつぶすぶすとくすぶっている。
この小説の主人公たちはまさにその夏休み直前の中学3年ぶすぶす組。
毎年恒例で行われていた地域の花火大会が財政難を理由に中止になってしまった。
実行するためには2000万円が必要だと言う。どうする俺たち。諦めるのか。嫌だ、絶対に諦めない。必ず花火を上げてみせる。
知恵も力も無いはずの中学3年生たちが、自分たちの力でお金を作り、地元の大人たちも巻き込んで花火大会を開催させていくさまはまさに正統派青春小説だ。
1週間で2000万円作るなんて昔の中学生にはムリなこと。けど、イマドキの子どもらはすごいね。頭の使い方が違うよ。あぁいう発想は現代だからこそ、だろうな。かなり小ズルイ手も使ったりもするけど、そこはまぁ、気付かなかったことにしておきましょう。
宗田理氏の「ぼくらの七日間戦争」をリスペクトして書かれたという本書。
この夏は元祖とこれと2冊セットで読むことをお薦めする。忘れかけた青い熱さが蘇るだろう。暑苦しくて不眠になるかもしれないけれど。
おまけ:身近な中3生に読ませたら
「おぉーーすっげーー!オレもやりてぇ、焼きそば作りてぇっっ」 とのこと...
感動所はそこかいっっっ!!
- 『三国志男』さくら剛 (2008年6月12日更新)
- 『のぼうの城』 (2008年5月8日更新)
- 精文館書店中島新町店 久田かおり
- 「活字に関わる仕事がしたいっ」という情熱だけで採用されて17年目の、現在、妻母兼業の時間的書店員。経験の薄さと商品知識の少なさは気合でフォロー。小学生の時、読書感想文コンテストで「面白い本がない」と自作の童話に感想を付けて提出。先生に褒められ有頂天に。作家を夢見るが2作目でネタが尽き早々に夢破れる。次なる夢は老後の「ちっちゃな超個人的図書館あるいは売れない古本屋のオババ」。これならイケルかも、と自店で買った本がテーブルの下に塔を成す。自称「沈着冷静な頼れるお姉さま」、他称「いるだけで騒がしく見ているだけで笑える伝説製作人」。