『おそろし ― 三島屋変調百物語事始』宮部 みゆき

●今回の書評担当者●精文館書店中島新町店 久田かおり

  • おそろし 三島屋変調百物語事始
  • 『おそろし 三島屋変調百物語事始』
    宮部 みゆき
    角川グループパブリッシング
    2,200円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

 久田的苦手なのもの選手権大会を開いたら、間違いなく1位は「怖いもの」だ。
 怖い本も、怖い映画も、怖い乗り物も、怖い人もみんなみんな苦手だ。怖い内容はいろいろだけど、特に「お化け」の類には近づきたくない。お化けが嫌いと言うとお化けが怒って乗り込んできそうなので、嫌いなのではなく親しみを持てないと言っておこう。
 
 子どもの頃、怖いもの見たさで買ってしまったお化けの本がめちゃくちゃ怖くて本当に怖くて。けれど捨てるわけにもいかず本棚の中で後向きに差し込んでおいた。それを遊びに来る度にちゃんと直していく従姉妹、あれはわざとだったのだろうか。
 
 遊園地のお化け屋敷はいつも混んでいる。時々、入ってすぐに恐怖のあまり騒ぎ過ぎて心配したお化けに付き添われて入り口から逆送される人がいる。あ、それ私だ。
 怖いと分かっているのに買ってしまうお化けの本、怖いと分かっているのに入っていってしまうお化け屋敷、そういう風に怖いものはなぜか人の心を惹きつけるらしい。
 宮部みゆき『おそろし』はタイトルからして怖そうである。あぁまた惹きつけられてしまった。
 
 主人公おちかは花も恥じらう17歳である。当時でいう結婚適齢期。本来ならば幸せいっぱい夢いっぱいの年頃である。なのに、とある事件が起こり心を閉ざし自分を責めて生きている状態で叔父夫婦に預けられる。
 
 おぞましい事件を経験したおちかは、同じように不思議で悲しくて恐ろしい体験を持つ人の物語を聞くことで共感し受け容れそして開いてしまっていた「扉」を閉じていく。そうやって人の扉を閉めると同時に自分自身の物語も閉じていくのである。おちかはお江戸のお化けバスター、なおかつ今で言うセラピストだったりもするんだな。
 おちかに向かって語られた物語の何がどう怖いかは読んでのお楽しみなのだけど全てが「美しさ」に結びついているところがいかにも日本的だ。情緒的なのだ。美しく情緒的な怖さ、あぁ、魅せられるではないか。
 
 海外の怖い話がどずどすばしばしぐわーーっと外から来る怖さなのに対し、日本のそれはじわじわしとしとひやーーっと内側から染み出す。何となく背筋に来るのである。あぁ後を振り向けない。そこに誰かいるよぉ。
 
 そう言えば、サブタイトルが「百物語事始」となっている。まだ4つしか語られていない。ってことはまだ続くのか?続くのか?続くんだな!! ひゃ~~っ!

« 前のページ | 次のページ »

精文館書店中島新町店 久田かおり
精文館書店中島新町店 久田かおり
「活字に関わる仕事がしたいっ」という情熱だけで採用されて17年目の、現在、妻母兼業の時間的書店員。経験の薄さと商品知識の少なさは気合でフォロー。小学生の時、読書感想文コンテストで「面白い本がない」と自作の童話に感想を付けて提出。先生に褒められ有頂天に。作家を夢見るが2作目でネタが尽き早々に夢破れる。次なる夢は老後の「ちっちゃな超個人的図書館あるいは売れない古本屋のオババ」。これならイケルかも、と自店で買った本がテーブルの下に塔を成す。自称「沈着冷静な頼れるお姉さま」、他称「いるだけで騒がしく見ているだけで笑える伝説製作人」。