『打撃の神髄 榎本喜八伝』松井浩

●今回の書評担当者●芳林堂書店高田馬場店 飯田和之

「神様、仏様、稲尾様」、「権藤、権藤、雨、権藤」どちらもプロ野球における連投を評した言葉である。言葉通り前者は西鉄ライオンズの稲尾和久投手、後者は中日ドラゴンズの権藤博投手のこと。私が好きな球団は読売ジャイアンツですが一番好きな選手は稲尾和久投手です。シーズン最多42勝を上げた伝説の投手。先日無敗のままシーズンを終えた田中将大投手でも24勝。この数字がいかに凄いものかが解って頂けるかと思います。

 そして毎月発売を楽しみにさせて頂いている『日本プロ野球偉人伝』。そちらの稲尾和久投手の項目を読んでいた時にこの人の為だけにフォークを投げ始めたとの記述があり急に気になり始めた選手が榎本喜八選手でした。プロ野球は昔から大好きなのですが恥ずかしながら昨年亡くなられた時に初めて名前を聞いたくらい。同シリーズの榎本選手の項目ではイチロー選手に抜かれるまでは史上最年少で2000本安打を達成、先日亡くなられた川上哲治さんを初めとして多くの関係者が「この男こそ打撃の天才」と口をそろえるとある。俄然気になり今回の『打撃の神髄 榎本喜八伝』(講談社)を手に取った訳です。

 天才というと何もしなくても凄いバッターなのかなと思ってしまうかと思いますが読んでいくとそんなことは全くなく、むしろ常に野球のことを考えていたマジメな人物でした。少年時代は貧しく屋根に穴も空いてしまい雨漏りがひどく傘をさして立っているしかない状態。台風が来てもずぶ濡れになりながらじっと耐えているだけ。そんな榎本選手でしたから早くプロ野球選手として1人前になり家を建てるのが目標でもありました。しかしながら農家でしたので食べるものには困らずその点ではまだ良かったのでしょう。

 王貞治さんと共に一本足打法を作り上げた荒川博さんが当時の所属チーム毎日オリオンズの監督に打診したことから実現した入団テスト。そこで見事に結果を出しプロ野球選手への道が開けます。

 1年目はなかなかの成績を残しましたが一流打者の1つの目安である打率3割には届かず。3割に届けば来年の給料が上がると信じ込んでいた榎本選手はそれが悔しくて仕方なくさらなる飛躍を目指して迎えた2年目。前述の稲尾和久投手が入団して来ます。

 他の一流投手ともしのぎを削っていた榎本選手ですが大きな壁にぶつかりそこで入団時にもお世話になった荒川博さんのススメで数年後に訪ねた合気道道場での藤平光一さんとの出会いが榎本選手を大きく変えることになるのですが.....。

 偉大な野球人はたくさんいましたがその偉大な打者たちが声をそろえて挙げる偉大な打者榎本喜八。その本質はただひたすら野球道を追い求めた孤高のそして努力のしかし天才打者でした。

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芳林堂書店高田馬場店 飯田和之
芳林堂書店高田馬場店 飯田和之
二浪の末ようやく大学に受かったものの結局一年で中退。その後は浪人時代に好きになった読書の為にメインで本を買わせて頂いた今の会社の津田沼店のアルバイトに応募。採用して頂き勤務。2011年11月より高田馬場店に異動になり現在に至ります。趣味が無駄に多く好きなものはトコトン突き詰める性格です。