『ID野球の父 プロ野球に革命を起こした『尾張メモ』再発見』戸部良也
●今回の書評担当者●芳林堂書店高田馬場店 飯田和之
現代社会において情報はもう欠かすことの出来ないもので1つの情報を知っているか、いないかで局面が変わってしまいひいては国際問題になってしまうこともある。私の大好きなアメリカドラマ『24』でも主人公ジャック・バウアーが1つの情報入手の為にそれこそ命を掛けて任務にあたる。
気が付いたらだいぶ脱線してしまっていたが私の大好きなスポーツ野球でも情報は戦略の1つである。今でこそビデオや様々な媒体を使い対戦相手のチームを分析することはプロどころか学生でもやっていることではあるけれど、もちろん最初からそうだった訳ではない。先日亡くなられた川上哲治さんの活躍されていた時代ではスランプに陥ってしまった時では自分の現在のスイングと良かった時のスイングを比較する事など出来なかったのでひたすら練習していたような記述があった。
しかしそれでは限界がある。人間のやることであるからクセもあるだろうし様々な場面での作戦の傾向もあるのでは? ということでそれを分析するのがスコアラーと呼ばれる人達である。そしてその先駆者が今回取り上げる『ID野球の父』(ベースボール・マガジン社)の尾張久次さんなのだ。世間的にはID野球と言ったら野村克也氏なのであろうが尾張さんは野村氏に先駆けてデータを集めそれに入団したばかりで当時まだ二軍だった野村氏が着目して自分で活かせないかと考え尾張氏と良く話すようになりひいてはそれを使いレギュラー捕手さらには三冠王へと駆け上がっていくのである。
実際には南海球団入団は野村氏と同年。それまでは新聞記者であったのが子供の頃から好きだった野球のデータ収集を持ち込み売り込んだところそれを活用してもらえることになり30年勤めていた新聞社を辞め一念発起で45才の『新人』として入団したのである。
データの集め方はひたすら球場に通い自分の目で見ること。当時はスコアラーというものが一般的ではなかったので選手の中にはスパイが入って来たと思った人もかなり多かったという。独自の方式を固め解りやすく色を使い自分の足で目で集めたデータが俗に言う尾張メモである。
この方の功績によりスコアラーは今や全ての球団で存在し戦略を大きく左右する欠かせない職業になった。今まで存在していなかったものは誰にでも異質に映るもの。でもそれでも信念を貫いた男の仕事が大きく時代を動かしたのだ。これぞID野球の父と言われる所以である。
- 『打撃の神髄 榎本喜八伝』松井浩 (2013年11月21日更新)
- 『私の教え子ベストナイン』野村克也 (2013年10月17日更新)
- 『青木学院物語』山口小夜 (2013年9月19日更新)
- 芳林堂書店高田馬場店 飯田和之
- 二浪の末ようやく大学に受かったものの結局一年で中退。その後は浪人時代に好きになった読書の為にメインで本を買わせて頂いた今の会社の津田沼店のアルバイトに応募。採用して頂き勤務。2011年11月より高田馬場店に異動になり現在に至ります。趣味が無駄に多く好きなものはトコトン突き詰める性格です。