『安井かずみがいた時代』島崎今日子

●今回の書評担当者●東京堂書店神田神保町店 河合靖

  • 安井かずみがいた時代 (集英社文庫)
  • 『安井かずみがいた時代 (集英社文庫)』
    島崎 今日子
    集英社
    756円(税込)
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 リットーミュージックから2014年に発売された「バハマ・ベルリン・パリ加藤和彦ヨーロッパ3部作」(書籍扱いCD3枚組&ブックレット)を偶然、ある新刊書店で見つけて購入した。運良く定価で購入できたが、どうやら現在既に出版社品切れで、ネット上では結構な高値が付いているらしい。

 この作品は30年以上の年月を経て、CD3枚のオリジナル音源、ボーナス・トラック付での復刻である。(加藤和彦手書きのコード譜、安井かずみ手書きの歌詞、レコーディング風景などを紹介したカラーの冊子がセットになっている)滅多に無い家で自分一人だけの休日、誰にも邪魔されず通しで聴いてみて、当時訳もわからず聴いていた「安井かずみ」の詩の意味とその素晴らしさを実感した。

 そして、再読したくなり書棚の奥から取り出したのが今回紹介させていただく『安井かずみがいた時代』である。

 フリーランスのライター兼編集者の島崎今日子さんが当時交遊のあった20人余りの証言を聞き書きした、伝説の人「安井かずみ」の素顔がわかる1冊である。林真理子の証言に始まり、コシノ・ジュンコ、ムッシュかまやつ、最初の夫である新田ジョージ、大宅映子、吉田拓郎など、とにかく読みごたえ十分である。

 60年代後半から数々のヒット曲を生み出した作詞家であるが、今でも即歌える曲をあげれば「赤い風船」浅田美代子、「危険な二人」沢田研二、「草原の輝き」アグネス・チャン、「危ない土曜日」キャンディーズ、「激しい恋」西城秀樹、「よろしく哀愁」郷ひろみ、「不思議なピーチパイ」竹内まりや、等々・・これは安井にとって第2次量産期で、僕の世代では第1次量産期の曲は聞いた事が有る程度で良くは知らない。

 1961年生まれの僕がこんな感じなので、安井かずみ世代の人にとってはそれこそ凄い影響力であったのだろうと想像出来る。

 作詞家として活躍しながら、時代の最先端をゆくファッションで着飾りロータス・エランを乗り回して、日本の最先端をゆく文化人やアーティストが集う伝説のレストラン「キャンティ」に同世代の友人であるコシノ・ジュンコや加賀まりこ達と出没し、それぞれのジャンルの最高峰の人たちと付き合うようになる。

 1960年代から70年代半ばまでの安井はあくまでも自由であくまで奔放で、危なく、アンニュイな魅力に溢れた女だった。しかしその生活は1977年に加藤和彦と結婚したのを契機にガラリとかわってゆく。世の中の志向を先取りするかのようにテニスを始め、昼型の健康的なライフスタイルへと生活を一変させる。一人の夕食を何より恐れていた作詞家は運命の男と出会い、生活の重点をワークからライフへと移すことを望んだのである。

 そして自ら盟友と呼んだ加賀まりこやコシノ・ジュンコらとの絆も徐々に薄れ、交友関係も大きく変わってゆく。加藤和彦との結婚以降の変貌ぶりは賛否両論有ると思うが、僕は素直に「素敵でとにかくカッコ良い夫婦」であったと思う。

 この本には安井が55歳という若さで亡くなるまでのこと、その後1周忌も待たずに加藤和彦が再婚すること、そして加藤和彦自死の事なども記されているが哀しくなるので、そこには触れないでおきたい。

 きっと加藤和彦は最終的に安井かずみの所へ行ったんだろうな!

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東京堂書店神田神保町店 河合靖
東京堂書店神田神保町店 河合靖
1961年 生まれ。高校卒業後「八重洲ブックセンター」に入社。本店、支店で28年 間勤務。その後、町の小さな本屋で2年間勤め、6年前に東京堂書店に入社、現在に至る。一応店長ではあ るが神保町では多くの物凄く元気な長老たちにまだまだ小僧扱いされている。 無頼派作家の作品と映画とバイクとロックをこよなく愛す。おやじバンド活動を定期的に行っており、バンド名は「party of meteors」。白川道大先生の最高傑作「流星たちの宴」を英訳?! 頂いちゃいました。