『リカ』五十嵐貴久
●今回の書評担当者●東京堂書店神田神保町店 河合靖
『リカ』シリーズの新作『リバース』が幻冬舎のPR小説誌「PONTOON」に連載され、10月にいきなり文庫新刊という形で発売された。
五十嵐貴久さんにとって『リカ』は2001年第2回ホラーサスペンス大賞を受賞した作品である。また、同年「TVJ」でも第18回サントリーミステリー大賞優秀作品賞を受賞しており2002年に鮮烈な小説家デビューを果たす。それからの活躍はいうまでも無い。
さて、作品の紹介だが『リカ』は僕が読んできた様々なホラー小説の中でダントツに1番怖い。今までも多くの人に薦めてきたが「2度と読みたくない」「一人暮らしの私にこんな本薦めるんじゃないよ!」という意見を貰う事があっても感謝された事は無い。(と言いながらも実は彼らは他の人にも薦めているらしい)でも怖いもの好きな人は僕を含め絶対たくさんいるはずだし、本当に最怖だし、とにかく読んでみて欲しい!(現に30万部も売れているベストセラーでもあるのだ)
物語は、普段真面目なサラリーマン本間が、ついスリルを味わいたくなり出会い系サイトに手を出し、そこで「リカ」と名乗る看護師の女性と知り合う。そこから凄まじいストーキングに合い、行動はエスカレートしていく。身の危険を感じた本間は、元刑事で今は探偵の原田に相談し調査を進めるにつれ、徐々にリカのおぞましい過去が分かってくる。以前病院で一緒に働いた事が有る医者に恋をしたが自分のものにならないから殺した事実。また、リカの邪魔をする者は次々に殺害していたという事実。しかしその原田も殺されてしまう。
ここで原田の刑事時代の先輩の菅原という刑事が現れ警察もやっと動き始めるが、リカは本間の愛娘にも魔の手を伸ばす。耐えられなくなった本間は、ついにリカと直接会い決着を付ける決心をするが......この先は書けない。『黒い家』と『羊たちの沈黙』を彷彿させるラストと単行本未収録の末期的な本当の結末に驚愕し呆然とする。単行本でお読みの方は多分文庫版で書き足されたこのエピローグを読むだけでも買う価値有りです。
そして恐怖の続編『リターン』は10年前のリカ事件を担当していた刑事の菅原。彼を師事していたコールドケース捜査班尚美は同僚の孝子とリカの捜査を始める。
同じくリカの捜査をしている孝子の恋人で捜査一課の奥山は、リカが10年前と同じように相手を求めて出会い系サイトを利用していると考え接触を試みる。捜査が難航している中、奥山からの連絡が途絶える。尚美と孝子は奥山のマンションを訪ねるが無残にバラバラにされた変わり果てた奥山の死体を発見する。孝子は部屋にあった彼の携帯を持ち去り携帯に残っていたリカのアドレスを見つけ、リカをおびき寄せる事にするが......しかし逆に尚美がリカに拉致され......てしまう。
そして衝撃のラストへ。
最後に『リバース』だがこの作品は『リカ』誕生の話である。有り得ない程屈折した家庭環境の中で殺人鬼『リカ』が形成されてゆくまでの話。前2作のようなグロさは無いが引き込まれる文章。しかしこれで終わりではない。『リカ』シリーズまだ続きは有りそうだぞ!
- 『安井かずみがいた時代』島崎今日子 (2016年11月7日更新)
- 『五〇年酒場へ行こう』大竹聡 (2016年10月6日更新)
- 『たてもの怪談』加門七海 (2016年9月1日更新)
- 東京堂書店神田神保町店 河合靖
- 1961年 生まれ。高校卒業後「八重洲ブックセンター」に入社。本店、支店で28年 間勤務。その後、町の小さな本屋で2年間勤め、6年前に東京堂書店に入社、現在に至る。一応店長ではあ るが神保町では多くの物凄く元気な長老たちにまだまだ小僧扱いされている。 無頼派作家の作品と映画とバイクとロックをこよなく愛す。おやじバンド活動を定期的に行っており、バンド名は「party of meteors」。白川道大先生の最高傑作「流星たちの宴」を英訳?! 頂いちゃいました。