『ひとごろしのうた』松浦千恵美

●今回の書評担当者●東京堂書店神田神保町店 河合靖

  • ひとごろしのうた (ハヤカワ文庫JA)
  • 『ひとごろしのうた (ハヤカワ文庫JA)』
    松浦千恵美
    早川書房
    950円(税込)
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 毎月、早川書房さんとは次月新刊の部決のための会議を行なっているが、新刊案内だけでは上手く内容が掴めず発注数を絞ってしまった書籍が実は今回ご紹介する作品である。(著者の松浦さん、すみません!)

 新刊が入荷して、いつものように検品を行っていた時に、入荷した実物を見て、おそらく2分くらいの間手が止まってしまい、仕事モード増幅&趣味モードが全開した。新刊検品の場面ではよくある事で何か一種の勘みたいなもので本屋の特権みたいなところがある。

 表紙のデザインだが、相当使い込んだ69年製のギブソンレスポールカスタム(通称ブラックビューティー)の写真が大きく使われていて、とにかく目立つ。また帯には鮎川誠の素敵な宣伝文句!音楽好きなら手に取ってしまうであろう体裁に仕上がっている。

 僕も速攻ジャケ買いして、読み始めたら何とあまりに面白過ぎる内容にすこぶるやられ、結局その日中に読破してしまった。翌日には追加を発注し大きく仕掛けたのは言うまでも無い。

 さて内容紹介だが、元ミリオンセラーアーティストで今は大手レコード会社の制作宣伝部ディレクターの大路樹(おおじ いつき)が、一般公募のオーディションデモ音楽を試聴していて「ひとごろしのうた」と題された曲の歌声とバックのギター演奏に強く魅せられる。
しかし、そのデモ音楽の送り主の手がかりは「瑠々」という歌手名以外何も分からず連絡も取れない状況での中、樹は上層部に掛け合い、ラジオを使って瑠々を探し始める。しかし、いつになっても有力な手掛りが得られない。

 最後の手段で、樹は、前代未聞 本人不在のまま、思い切ってインディーズのレーベルを立上げCDをリリースする。CDショップに試聴コーナーを設置してもらったりSNS等を利用したりして発売6週目にして週間インディーズシングルチャートの第1位まで登りつめる。「瑠々」の歌が街中に流れ始めると、業界も怪しい動きを見せはじめる。

 音楽業界を経験されている著者、松浦さんならではの筆力で興味を大いにそそる場面でもある。CDのセールスがNO1になっても一向に姿を現さない瑠々。それにつけこんで、これから売り出そうとしている新人を「瑠々」としてデビューさせたいと、樹に大手プロダクションの権力者が近づいてくる場面はかなり生臭い。この件は、あの有名な国民的ドラマとなったあの作品を思い出させる。

 この後「ひとごろしのうた」に影響されたという殺人事件の記事が週刊誌に掲載されてしまい瑠々のCDはほとんどのショップから撤去されてしまう。

 瑠々探しと同時にこの事件の真相を追う樹が最終的に知る真相とは!「ひとごろしのうた」に隠された哀しい真実が......とか、まだまだ紹介したいのですがネタバレに繋がりそうなのでこの辺で!

 スピーディーな展開と無駄のない上質な文章にミステリーのファンは勿論満足出来ると思います。更には「昔、楽器をやっていたけど、もう何十年も触っていない」という方はこの本を読むと間違いなくまたやりたくなります。70年代のロックが甦ってくる1冊!是非とも手に取ってください。

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東京堂書店神田神保町店 河合靖
東京堂書店神田神保町店 河合靖
1961年 生まれ。高校卒業後「八重洲ブックセンター」に入社。本店、支店で28年 間勤務。その後、町の小さな本屋で2年間勤め、6年前に東京堂書店に入社、現在に至る。一応店長ではあ るが神保町では多くの物凄く元気な長老たちにまだまだ小僧扱いされている。 無頼派作家の作品と映画とバイクとロックをこよなく愛す。おやじバンド活動を定期的に行っており、バンド名は「party of meteors」。白川道大先生の最高傑作「流星たちの宴」を英訳?! 頂いちゃいました。