『スマホを落としただけなのに』志駕晃

●今回の書評担当者●東京堂書店神田神保町店 河合靖

  • スマホを落としただけなのに (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
  • 『スマホを落としただけなのに (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)』
    志駕 晃
    宝島社
    435円(税込)
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 まずは、著者である志駕晃さんに謝らなくてはならない。

 あまりにも疲れていて鞄の中の読みかけの本を読むにはちょっと抵抗があり、軽く斜め読みが出来る本をと思いこの本を購入した。ちょっと前に日刊ゲンダイで森永卓郎さんがこの作品を紹介していたが、森永さんがなぜか小説を紹介し、更には褒めちぎっていた事が不思議な感じで、気になっていた1冊でもあったのだが......。

 読み始めてすぐに、息もつかせぬスピード感に圧倒される。絶妙のタイミングで場面展開していく。そして最後には想像を絶する大ドンデン返しが待っている。文中読者の集中力が途切れないようさまざまな工夫を凝らしている。

 著者は元ラジオディレクターということも有り、物語の構成が巧みである。
 実はこの作品、斜め読みなんてとんでもない代物だったのだ。本当にごめんなさい!

 物語は、ヒロインの恋人がスマホをタクシーの中に落とし、それをある男が拾う。SNSの裏技やハッキングに長けたその男はスマホの中にヒロインの「人には見せられない」情報があるのを見付けヒロインに強い興味を持つ。そこからは悪夢のような展開が!

 物語はもうひとつの視点からも語られていく。神奈川県の山中から身元不明の推定20~40代女性の白骨死体が次々と発見される。共通している点は全ての被害者が長い黒髪であること(ヒロインも長い黒髪である)。

 殺人事件として警察が捜査に乗り出すが、被害者の身元は一向に分からない。手がかりはあるが犯人に辿り着けない警察の焦り。被害者の身元特定が出来ないのにも実はスマホが絡む恐ろしい裏があった。読んでいくうちにこの犯人がこの男であるという事が分かってくる。そしてヒロインにその魔の手が迫る事も......。

 犯人がどうやってヒロインに接触していくのか。犯人のクラッキングによってヒロインの個人情報が次々と暴かれてゆく過程はあまりにもリアル。

 単にミステリー小説という括りでは収まらないノンフィクション&警察小説&推理小説&ホラー小説&青春小説とテンコ山盛りの極上エンターテインメント小説である。

 僕も、そして多分大勢の人はセキュリティに対する意識は決して高くは無いだろう。

 単純なパスワードであれば四桁のパスワードなどは数時間で突破出来てしまうらしい。フェイスブック等も単純なパスワードを使用していると簡単に乗っ取られてしまうらしい。

 アナログ人間の自分でさえ、生活の上で必要なデータの多くはスマホに蓄積されており最早スマホ無しでは何も出来ないし不安である。更には手帳すら持たない生活習慣になってしまっている。そんな今、もしスマホを落としたら暗記している家の電話か職場以外誰にも電話すら事すら出来ないだろう。

 この作品、日本は安全であるという思い込みと、パソコン、スマホに依存している現実を読者に突きつけ、実際はとてつもないリスクを背負っているのだ。というメッセージも込められている。

 最後にひと言! 今すぐパスワードを変更すること、指紋認証にすることをオススメしたい。

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東京堂書店神田神保町店 河合靖
東京堂書店神田神保町店 河合靖
1961年 生まれ。高校卒業後「八重洲ブックセンター」に入社。本店、支店で28年 間勤務。その後、町の小さな本屋で2年間勤め、6年前に東京堂書店に入社、現在に至る。一応店長ではあ るが神保町では多くの物凄く元気な長老たちにまだまだ小僧扱いされている。 無頼派作家の作品と映画とバイクとロックをこよなく愛す。おやじバンド活動を定期的に行っており、バンド名は「party of meteors」。白川道大先生の最高傑作「流星たちの宴」を英訳?! 頂いちゃいました。