『SUGAR ma vie de chat』セルジュ・バーケン

●今回の書評担当者●今野書店 松川智枝

 うちには今、東日本大震災のあった年の夏、福島からやってきた黒猫がいます。病弱にも関わらず15年生きてくれた先代も黒猫だったので、約20年、黒猫と一緒に暮らしています。『SUGAR』は、わたしの黒猫に対するフェティッシュな欲望を満たしつつ、楽しくも生傷の絶えない猫との暮らしを、猫目線で見るという、愛しい1冊となりました。

 まずは、海外漫画でよく見る均等に割り振られた幾何学的なコマ割り、その1コマ1コマに、連続性もありながら、それら全部を合わせたページ全体も1枚の絵として見ることが出来るモザイクとなっている場面に目を奪われます。猫の動作を点と面で表してあり、その一瞬の動作のうちの時間の経過が、1ページでよく分かるとても美しいイラストレーションとなっています。

 猫の動きやしぐさもとても繊細で、間近で猫を見ている者にはお馴染みのいたずらも、「ごめん」なんて吹き出し付きで描かれているものだから、なんて愛らしいんだ!と寛大な気持ちになってしまいます。実際には、通じないお説教を延々とするところなのですが。

 そして一番印象的なのが、猫が自分の名前を覚えていく場面。猫主体で描かれているので、人間が何を言っているのかは分からないものの、会話の中に同じ音が何回も聞こえるのです、〈シュガー〉と。それが自分の名前なのだな、と認識していくシーンはとても感動的です。また、引っ越しのために一時的に取り残されて、飼い主のアンが迎えにきた時、抱き上げられながら「アンだ!」という猫の声は、本当に聞こえてくるようです。猫と暮らしている者にとって、絶妙な距離感のある猫と人との関係において、猫が自分の名前を覚え、人である〈わたし〉を認識してくれた喜びというものは、他には代え難いものだからです。

 近年稀に見る猫ブームの中、猫本もあまた出版されている今日この頃。海外の話だし、キャッチーではないかもしれないけれど、割と淡々とサラッと描かれたとある家族と黒猫〈シュガー〉の物語は、猫のツンデレな性格のように、常に傍に置いて、思い出す度に何度でも読み返したくなる、あまたの猫本に埋もれてしまわない1冊となりました。

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今野書店 松川智枝
今野書店 松川智枝
最近本を読んでいると重量に手が震え、文字に焦点を合わすのに手を離してしまうようになってしまった1973年生まれ。それでも高くなる積ん読の山。