『エコノミックス』マイケル・グッドウィン
●今回の書評担当者●今野書店 松川智枝
よくもまぁ何も知らずにこの年齢まで生きてこられたものだと、自分でも呆れる程経済に疎かったのが、ビジネス書を担当するようになって、この『エコノミックス』を読める程には成長したのであります。アダム・スミスという名前も《神の見えざる手》というフレーズも知ってはいますが、何を喩えたんだっけ? という程度の知識で読んでも、親しみやすいアメコミのイラストに助けられて、経済史が何となく把握できたうえに、世界の経済状況にとても感心を持つようになりました。
アダム・スミスに始まる様々な思想家、経済学者が、産業革命から急速に発展する貨幣経済の分析をし、国家の指導者たちが政治と経済のバランスをどうとってきたかを読み進むうちに、政治が経済を動かしているのではなく、経済が政治を動かしているのか! と新鮮な驚きを感じました。
後半はほぼ現代のアメリカの経済事情になるので自分が暮らす日本にすっぽり当てはめることはできないとはいえ、先進国はどこも似たり寄ったりであるだろうし、なんだか世界も自分も金に操られているような暗澹たる気持にもなりました。
実際このマンガを読んでからというもの、ニュースで様々な国の様々な出来事を知り、そこに経済ニュースを重ねてみると、あぁなるほどここにこの利権がある訳か! と納得することが多くなりました。お金そのものは見ることが出来るのに、《経済》という目に見えないものが背後で蠢いている感じはちょっとホラーです。
しかし、著者グッドウィンは、最後にわたしたち1人1人が考えて試すことを促しています。マクロ経済はいろいろなことが繋がり合っていて簡単にシステムを変えることはできないけれど、ミクロ経済はわたしたちの手の中、このお金が何に対する対価でどう動くのか、自分がどんな風に働きどんな風に生活したいのかを考えて行動することで、経済の歪みは少しづつ解消されるのではないか、と。
あれが無いとかこれが欲しいとか何気なく思うものですが、この小さな煩悩が世界の貧困や、紛争による各国の貸借関係に細い糸で繋がっているのかと思うと、おいそれと物も買えなくなりますが、足りているという意識は持った方が良いとこのマンガに教えられたと思います。
- 『ビビビ・ビ・バップ』奥泉光 (2017年3月23日更新)
- 『塹壕の戦争』タルディ (2017年2月23日更新)
- 『破天の剣』 (2017年1月26日更新)
- 今野書店 松川智枝
- 最近本を読んでいると重量に手が震え、文字に焦点を合わすのに手を離してしまうようになってしまった1973年生まれ。それでも高くなる積ん読の山。