『Another』綾辻行人
●今回の書評担当者●啓文社西条店 三島政幸
綾辻行人氏の作家歴は、そのまま「日本における新本格ムーブメントの歴史」でもある。島田荘司氏の推薦により『十角館の殺人』でデビューしてから20年が
過ぎ、最初のうちこそ批判にさらされていたものの、現在ではすっかり日本ミステリ界の中心人物の一人である。「綾辻以降」という表現が使われるほど、彼の
登場は鮮烈であり、エポックメイキングだった。
その綾辻氏の新刊『Another』を、実は最初は読むつもりはなかった。ちょっと失礼な言い方になるかも知れないが――いや、かなり失礼な言い 方になるのだが――「今さら綾辻なんて」と思っていた。かつては、新作が発表されるたびに、真っ先に書店に走って購入し、わくわくしながらページを開き、 気がついたら一気読みし、ラストに驚愕していたものであった。だが、さすがにもう、かつてほどの勢いはなくなってしまっただろう。そう、思い込んでいた。 ジャンルが「ホラー小説」に位置づけられているらしいことも、私を躊躇させていた。
しかし、発売直後から、あちこちで「傑作」との評判を目にした。これはもしや、「何かやってくれている」のではないか。わずかな期待を抱き、とはいえまだ不安も残しながら、本書を読んでみた。
読 んで驚いた。感動に打ち震えた。これはホラーでありながら、素晴らしい本格ミステリだった。こんな技を、まだ使えるなんて。こんなに一気に読ませる「若々 しい筆力」を、まだ持っているなんて。ここに来て、綾辻氏の新たな代表作が登場した。そう断言させるほどの大傑作である。
綾辻氏は――これまたやや失礼な表現になるのを許されたいが――「反則スレスレの騙しのテクニック」を自在に使いこなせる天才、というの が私の認識である。アンフェアとは言わないものの、「してやられた感じ」を受けるのだ。デビュー作『十角館の殺人』から既にそういうトリックが登場する し、それ以降の「館シリーズ」、ホラーミステリの傑作『殺人鬼』シリーズ、そして、その手のアイデアをあえて派手に使いまくった短篇集『どんどん橋、落ち た』などでその実力を発揮しているし、短篇でも「四○九号室の患者」「再生」など、印象的な作品は数多く存在する。
今回の『Another』も、綾辻氏に「してやられた」と感じずにはいられない。そして、その伏線が、物語の全編に亘って実に巧妙に張り巡らされていることに気づくだろう。綾辻氏の初期作品に通じる驚きが、テクニックが、そこにはあるのだ。
もちろん、本作品の基本はホラーであり、その観点からも間違いなく傑作である。最後まで物語を引っ張る力を充分備えている。読みながらぐいぐい作品世界に呑み込まれていくのだ。
ス トーリーについてはここではあえて触れないでおきたい。できれば予備知識なしに読んでいただくのが一番だと感じるからだ。などと書きながら、すっかり、ス トーリー以外の部分で予備知識を与え過ぎてしまった。期待値も高め過ぎたかも知れない。しかし、心配することはない。今あなたが持った期待値を遥かに上回 ることを、ここに保証する。私がここまで推す理由も分かるだろう。綾辻氏の新たな代表作を読む喜びを、是非とも感じていただきたい。
その綾辻氏の新刊『Another』を、実は最初は読むつもりはなかった。ちょっと失礼な言い方になるかも知れないが――いや、かなり失礼な言い 方になるのだが――「今さら綾辻なんて」と思っていた。かつては、新作が発表されるたびに、真っ先に書店に走って購入し、わくわくしながらページを開き、 気がついたら一気読みし、ラストに驚愕していたものであった。だが、さすがにもう、かつてほどの勢いはなくなってしまっただろう。そう、思い込んでいた。 ジャンルが「ホラー小説」に位置づけられているらしいことも、私を躊躇させていた。
しかし、発売直後から、あちこちで「傑作」との評判を目にした。これはもしや、「何かやってくれている」のではないか。わずかな期待を抱き、とはいえまだ不安も残しながら、本書を読んでみた。
読 んで驚いた。感動に打ち震えた。これはホラーでありながら、素晴らしい本格ミステリだった。こんな技を、まだ使えるなんて。こんなに一気に読ませる「若々 しい筆力」を、まだ持っているなんて。ここに来て、綾辻氏の新たな代表作が登場した。そう断言させるほどの大傑作である。
綾辻氏は――これまたやや失礼な表現になるのを許されたいが――「反則スレスレの騙しのテクニック」を自在に使いこなせる天才、というの が私の認識である。アンフェアとは言わないものの、「してやられた感じ」を受けるのだ。デビュー作『十角館の殺人』から既にそういうトリックが登場する し、それ以降の「館シリーズ」、ホラーミステリの傑作『殺人鬼』シリーズ、そして、その手のアイデアをあえて派手に使いまくった短篇集『どんどん橋、落ち た』などでその実力を発揮しているし、短篇でも「四○九号室の患者」「再生」など、印象的な作品は数多く存在する。
今回の『Another』も、綾辻氏に「してやられた」と感じずにはいられない。そして、その伏線が、物語の全編に亘って実に巧妙に張り巡らされていることに気づくだろう。綾辻氏の初期作品に通じる驚きが、テクニックが、そこにはあるのだ。
もちろん、本作品の基本はホラーであり、その観点からも間違いなく傑作である。最後まで物語を引っ張る力を充分備えている。読みながらぐいぐい作品世界に呑み込まれていくのだ。
ス トーリーについてはここではあえて触れないでおきたい。できれば予備知識なしに読んでいただくのが一番だと感じるからだ。などと書きながら、すっかり、ス トーリー以外の部分で予備知識を与え過ぎてしまった。期待値も高め過ぎたかも知れない。しかし、心配することはない。今あなたが持った期待値を遥かに上回 ることを、ここに保証する。私がここまで推す理由も分かるだろう。綾辻氏の新たな代表作を読む喜びを、是非とも感じていただきたい。
- 『復讐法廷』ヘンリー・デンカー (2009年10月9日更新)
- 『追想五断章』米澤穂信 (2009年9月10日更新)
- 『まっすぐ進め』石持浅海 (2009年8月13日更新)
- 啓文社西条店 三島政幸
- 1967年広島県生まれ。小学生時代から図書館に入り浸っていたが、読むのはもっぱら科学読み物で、小説には全く目もくれず、国語も大の苦手。しかし、鉄道好きという理由だけで中学3年の時に何気なく観た十津川警部シリーズの2時間ドラマがきっかけとなって西村京太郎を読み始め、ミステリの魅力に気付く。やがて島田荘司に嵌ってから本格的にマニアへの道を突き進み、新本格ムーブメントもリアルタイムで経験。最近は他ジャンルの本も好きだが、やっぱり基本はミステリマニアだと思う今日このごろ。