『お好みの本、入荷しました』桜庭一樹
●今回の書評担当者●啓文社西条店 三島政幸
《じつは先月、入籍した》
断っておくが、入籍したのは私ではない。桜庭一樹氏がWEB連載エッセイ「続々・桜庭一樹読書日記」の2009年2月号において、冒頭いきなり入籍を発表したのだ。一般に報道されていなかった(そもそも、作家の結婚が報道されることはまずないのだが)ので、読書界はこのいきなりの報告に驚愕したものである。
桜庭一樹氏は2008年に『私の男』で直木賞を受賞して以降、恐らくはそれまで以上に多忙な日々を過ごされているはずだ。『私の男』以降でも、『荒野』、『ファミリーポートレイト』、『製鉄天使』と新作を発表し、それ以外でも数多くの作品を文庫化(あるいは再文庫化)している。そして2009年に入ってからの突然のご結婚。ここ1~2年は、まさに疾風怒涛の忙しさではないだろうか。
しかし、桜庭氏の趣味の「読書」に関しては、それ以前と全く変わることなく、いやむしろ、それまで以上に精力的になってきているように感じられる。どこをどう縫って読書の時間を捻出しているのか、不思議で仕方がないのだが、登場する本も多彩であり、深く読み解いている。さらに単行本では注釈も詳細に入っており、興味を惹くような構成となっている。本書がきっかけとなり、桜庭氏のファンや読者が多くの新たな本と出合い、さらに読書にのめり込むようになったなら、それは桜庭氏の功績である。
さらにこれは、ただの読書日記で終わっていない。日常の出来事をユーモラスに描いており、登場する編集者、作家に親近感が沸いてくる。そしてなにより「夫」と繰り広げられる珍妙な遣り取り。読んでいる方もつい、ほのぼのしてしまう。
もちろんそれだけでなく、作家としての志の高さを感じることが出来るのもまた、本書の魅力である。読書記録や日々の何気ない日記の中に、こんな凄い発言も、さらりと出てくる。
《今年、小説は、ノンフィクションにどうしても勝たないといけません。わたしたちはもっとすごいものを書いて。すごい本をつくって。もっともっと遠くに読者を連れていくんだ。》
こんな心構えで書かれた小説を、私たちは、読んでいるのだ。我々も心して桜庭氏の小説に向き合わなければなるまい。
――もっとも、この発言の直後、編集者さんに爆笑されてしまうのだけれど。
- 『8・1・3の謎』モーリス ルブラン (2010年1月15日更新)
- 『造花の蜜』連城三紀彦 (2009年12月10日更新)
- 『Another』綾辻行人 (2009年11月13日更新)
- 啓文社西条店 三島政幸
- 1967年広島県生まれ。小学生時代から図書館に入り浸っていたが、読むのはもっぱら科学読み物で、小説には全く目もくれず、国語も大の苦手。しかし、鉄道好きという理由だけで中学3年の時に何気なく観た十津川警部シリーズの2時間ドラマがきっかけとなって西村京太郎を読み始め、ミステリの魅力に気付く。やがて島田荘司に嵌ってから本格的にマニアへの道を突き進み、新本格ムーブメントもリアルタイムで経験。最近は他ジャンルの本も好きだが、やっぱり基本はミステリマニアだと思う今日このごろ。