『『屍の命題』』門前典之

●今回の書評担当者●啓文社西条店 三島政幸

  • 屍(し)の命題 (ミステリー・リーグ)
  • 『屍(し)の命題 (ミステリー・リーグ)』
    門前典之
    原書房
    1,944円(税込)
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湖畔の山荘「美島荘」は、外に断頭台が設置されている建物だ。行方不明となった大学教授の遺志を継いだ夫人によって建築された。その落成を祝い、教授ゆかりの友人たち6人が集まってきた。やがて雪が降り、外界から遮断された建物で、一人、また一人が無残に殺されていく。その経緯は、最後まで残っていた2人の手によって別々に記録されていた。しかし、最終的にこの2人も死亡、招待客は誰もいなくなった......。

『屍の命題』の著者、門前典之氏は、2001年に『建築屍材』で鮎川哲也賞を受賞し、デビューしている。しかし、実はその前にも鮎川賞の最終候補になったことがあり、それを自費出版系の版元「新風舎」から出版していたのが、本書の元になった『死の命題』だった。この『死の命題』の発表当時は「隠れた珍作」、今で言うところの「バカミス」の怪作として、ミステリマニアの間で話題になっていた。私も当時入手して読んだが、確かに珍作と呼ぶに相応しい作品であった。『建築屍材』での本格デビュー後、この『死の命題』を加筆修正しているらしい、という噂があったように記憶しているが、出版の話はなかなか出てこなかった。そしてこの度原書房から、『屍の命題』が出版された。「死」→「屍」と字が変わって入るものの、『死の命題』の増補版、と言っていいだろう。かの「知る人ぞ知る」怪作が、ようやく再び陽の目を見ることになった。

山荘で起こる事件で最大の奇想は、なんといっても「巨大な兜虫の亡霊」であろう。雪の中を、巨大化したカブト虫としか思えないような生き物が蠢くのである。よくもまあこんな設定を思いついたものだ、と思う。
しかし、本書の最大の読みどころは、別の部分にある。
この、まるで「そして誰もいなくなった」のような連続殺人そのものに、ある仕掛けが隠されているのだ。

それがどんな仕掛けなのか、私は実は今、書きたくて書きたくて仕方がないのだが、さすがにネタバラシになるので書けない。実に強烈、かつ、あまりにも不可能すぎて、説明されても俄かには信じがたいのだ。今回、事実上の「再読」になる私は、その仕掛けを知った状態で今回読んだのに、それでも「よくやったなあ、こんなの」と半ば呆れてしまった。似たような仕掛けをやった有名な先例もあるのだが、そちらとは「逆」のパターンなので(何がどう「逆」なのだ、と思われるだろうが、そういう説明も全くできないのだ。ああ、もどかしい)、より難易度が上がり、アクロバティックになっている。繰り返すようだが、本当によくやったなあ、と思う。

一度読んだら絶対に忘れられない大技トリックを、(私のように「話したくて仕方がない人」によってバラされる前に)是非とも自分の目で確かめて欲しい。そして「そんなバカな!」と叫んでいただきたい。

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啓文社西条店 三島政幸
啓文社西条店 三島政幸
1967年広島県生まれ。小学生時代から図書館に入り浸っていたが、読むのはもっぱら科学読み物で、小説には全く目もくれず、国語も大の苦手。しかし、鉄道好きという理由だけで中学3年の時に何気なく観た十津川警部シリーズの2時間ドラマがきっかけとなって西村京太郎を読み始め、ミステリの魅力に気付く。やがて島田荘司に嵌ってから本格的にマニアへの道を突き進み、新本格ムーブメントもリアルタイムで経験。最近は他ジャンルの本も好きだが、やっぱり基本はミステリマニアだと思う今日このごろ。