『数学ガール』
●今回の書評担当者●中原ブックランドTSUTAYA小杉店 長江貴士
少し前ですが、エジプトに旅行に行きました。さてそこで大問題です!何かと言えば、飛行機です!
エジプトに行くには、十何時間も飛行機に乗らないといけません。これは困った。そんな長い時間何をしていればいいのだろう。本を読むにしても、たくさん持っては行けない。DSは持ってないし、持ってても充電の問題がある。さてどうする。
そこで数学の問題集です。これなら、紙と鉛筆があればかなり時間が潰せる。僕は、講談社ブルーバックスから出ている「入試数学伝説の良問100」という問題集を持っていくことにしました。
一応言っておくと、これは僕が数学が得意だという話ではなく、数学が好きだという話です。学生時代は結構得意だったんですけど、今となっては二次方程式の解の公式さえちゃんとは覚えていないくらいです。
本書は数学の本ですが、非常に面白い構成になっています。
高校生の「ぼく」は学校で、ミルカとテトラという二人の少女と出会います。
ミルカはぼくに突然数学の講義を始める。ミルカの話についていくのは大変だけど、いつも自分の知らない地平まで連れて行ってくれる彼女にぼくは惹かれていく。
テトラは後輩で、ぼくに数学を教えて欲しい、と言ってやってくる。まだ勉強し始めで数学の知識はあまりないが、鋭い質問をしたりと教えがいがある。
そんな風にぼくは、ミルカとテトラという少女と数学を通じて交流を続けて行きます。そんなストーリー仕立てで、分かりやすく数学を解説してくれる本です。
内容はかなり広範囲に渡っていて、小学生にも理解出来るものから大学生でも難しいだろうと思われるものまで様々です。ミルカが繰り出す講義は結構難しいですが、しかし学校の授業では絶対に教わらないワクワクするようなものが多いです。逆にテトラの話は、小学生でも理解出来るような素朴な疑問が多いですが、数学の知識があまりないが故に本質を突くような展開になることが多いです。
本作を読んで最も感動したのは、フィボナッチ数列の一般項を求めるという話です。フィボナッチ数列というのは有名な数列で、
0、1、1、2、3、5、8、13、21...
というように、前の二つの項を足すと次の項になる数列のことです。
僕ももちろんこの数列のことは知っていましたが、まさか一般項があるとは思ってもみませんでした。一般項を求める過程はかなり難しくて、その論理を追いかけていくのは大変なんですが、最後答えに辿り着いた時は感動しますね。しかも、フィボナッチ数列はすべて整数による数列であるのに、一般項にはなんとルートが出てくるわけです!
僕は数学や物理に関する本が好きなんですが、知的好奇心を満たしながら、同時に読み物としても面白いという作品で本作以上のものはなかなかないのではないか、と思います。数学が苦手だという人も、全部読み通すことは難しいかもしれませんが、必ず興味を持てる部分が出てくると思います。
- 『鳥類学者のファンタジア』 (2008年5月1日更新)
- 中原ブックランドTSUTAYA小杉店 長江貴士
- 1983年静岡県生まれ。 冬眠している間にフルスウィングで学生の身分を手放し、フリーターに。コンビニとファミレスのアルバイトを共に三ヶ月で辞めたという輝かしい実績があったので、これは好きなところで働くしかないと思い、書店員に。ご飯を食べるのも家から出るのも面倒臭いという超無気力人間ですが、書店の仕事は肌に合ったようで、しぶとく続けております。 文庫・新書担当。読んでいない本が部屋に山積みになっているのに、日々本を買い足してしまう自分を憎めきれません。