『狼と香辛料』支倉凍砂

●今回の書評担当者●中原ブックランドTSUTAYA小杉店 長江貴士

  • 狼と香辛料 (電撃文庫)
  • 『狼と香辛料 (電撃文庫)』
    支倉 凍砂
    メディアワークス
    8,834円(税込)
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乙一・有川浩・桜庭一樹・橋本紡。この四人の作家の共通項は?

なんて簡単すぎますよね。もちろん、ライトノベル出身の、一般文芸作家です。

ライトノベルはそもそも定義の曖昧なジャンルですが、最近のこの流れによって、より境界が曖昧になっている気がします。ちょっと前までは、普通の小説よりもジャンルとして劣った扱いをされていたと思いますが、最近では小説の一ジャンルとしての地位を高めつつあると思います。

僕のいる店では、とにかくライトノベルがやたら売れます。以前よりも遥かに売れるようになりました。新刊もどっさり入ってくるし、そしてそれが一瞬にしてなくなるのをいつも見ていると感動します。

ハチャメチャに売れるのを見ていると、なんとなく読みたくなってくるんです。ものすごく売れてるけど、そんなに面白いのかな、と。僕はもともとライトノベルはまったく読んだことがなかったんですけど、勉強の一環ということにして手を出すようになりました。

ただこれまで、かなり売れていて世間的にも評価が高そうなシリーズ物をそこそこ読んでみましたけど、どれもあまりピンときませんでした。結局ほとんど1巻目を読んで止めてしまっています。これまでなかなか、ライトノベルのシリーズで面白いと言えるものには出会えませんでした。

しかし、見つけましたよ。ライトノベルで初めて面白いと絶賛できるシリーズ作品を。それが、「狼と香辛料」です。

旅商人であるロレンスは、行商の途中、一人の少女を拾う。ホロと名乗ったその少女は、実は豊作を司る神だった。自分のことを「わっち」と呼ぶ、見た目は普通の少女だが、頭の回転の速さは凄まじく、また本当の姿はかなり恐ろしいものだった。

二人は共に旅をすることになる。自らの故郷を忘れてしまったホロのために、ロレンスは行商のついでに情報を集め、さらにホロを故郷まで送り届けてやろうと決めたのだ。

二人は行商を続けながら様々な町を巡るが、そこで商売上の様々なトラブルに巻き込まれることになる。二人は毎回その危機をなんとか乗り切るのだが...。

ストーリーや設定が非常にしっかりして読み応えがあります。トラブルに巻き込まれる過程、その渦中での人々のあり方、そのトラブルをいかに解決するか。背景や心情などについても非常に繊細に描かれます。物語の構成や展開も非常に巧いです。

しかし何よりも本作の魅力となっているのは、ホロとロレンスのやり取りです。彼らはずっと、相手の思考を読んで言葉で罠に嵌めたり、突然素直になって相手を翻弄したりと、ちょっと捻くれた形でイチャイチャし続けます。僕は既に5巻まで読みましたが、このやり取りの妙が、巻を追う毎にどんどん面白くなっていくわけで、つい読んでしまいます。

ライトノベルを読まず嫌いの人にぜひ読んで欲しいと思います。読書の幅が広がるかもしれませんよ。この作家もいずれ一般文芸の世界にやってきそうな感じがしますが、どうでしょうか。

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中原ブックランドTSUTAYA小杉店 長江貴士
中原ブックランドTSUTAYA小杉店 長江貴士
1983年静岡県生まれ。 冬眠している間にフルスウィングで学生の身分を手放し、フリーターに。コンビニとファミレスのアルバイトを共に三ヶ月で辞めたという輝かしい実績があったので、これは好きなところで働くしかないと思い、書店員に。ご飯を食べるのも家から出るのも面倒臭いという超無気力人間ですが、書店の仕事は肌に合ったようで、しぶとく続けております。 文庫・新書担当。読んでいない本が部屋に山積みになっているのに、日々本を買い足してしまう自分を憎めきれません。