『円朝〈上〉』小島 政二郎
●今回の書評担当者●中原ブックランドTSUTAYA小杉店 長江貴士
僕だけは買わないと思ってたんですよ。日本中の誰もが買ったとしても、僕だけは、って。
買ってしまいましたよ。デアゴスティーニから出ている「隔週刊 落語百選DVDコレクション」の創刊号。パートワーク誌にだけは手を出すまいと思っていたのに...。
「赤めだか」が話題になり、酒飲み書店員大賞が「ファイティング寿限無」に決まり、今回紹介する「円朝」が河出文庫から復刊したり...。僕の中で落語が気になる時期だったんです(もちろん全部読みました)。そんな時にですよ、デアゴスティーニさん、「落語百選」なんか創刊しちゃいけないですよ。買っちゃうじゃないですか。まったくです!
調子に乗って、立川談志の古典落語のDVDも買いましたよ。「子ほめ」と「粗忽長屋」を聞きましたけど、これが上手いのなんの!「子ほめ」は「落語百選」の創刊号のものと比較しましたが、やっぱりレベルが違いましたね。観客を自ずと惹きこんでいくその話術には驚かされました。落語を語る談志から、気迫の塊を感じました。
「円朝」は、近代落語の祖と呼ばれる三遊亭円朝をモチーフにした小説です。著者の祖父が円朝の幼なじみだったこともあり、著者だからこそ書けた円朝一代記となっています。
円朝の凄さは、名人上手が束になっても足元にも及ばなかったと言われるほどであり、寄席が掛かれば常に満員、客留めをしなくてはならないほどだったそうです。
大した落語家ではなかった父に、幼い頃たった一度だけ上げてもらった高座が忘れられず、母の反対を押し切って落語家を目指した円朝。メキメキと力をつけて真打ちになるも、そのお披露目会で、その日の演目を師匠に先にされてしまう。それが幾日も続き困った円朝は、古典をやるから真似されるのだと気づき、新作をひっさげて高座に上がった。
これが当たった。円朝は江戸中で人気を博し、円朝の看板が掛かれば客が押し寄せてくるまでになった。
しかし円朝は悩む。鳴り物や背景に頼らず、余計な装飾のない素話一本で勝負すべきなのではないか、と。悩みぬいた末に素話のみに転向した円朝は、一気に人気を失って行く。しかし円朝は落語と真剣に向き合い、やがては当代随一と呼ばれる落語家へと成長していく。
若くして天才と呼ばれ、多くの客を惹き込み、後々近代落語の祖と呼ばれるまでになった円朝も、しかし多くの悩みと対峙しながらの人生だったわけです。一方、落語一辺倒だったというわけでもなく、特に女性関係では様々に苦労することになります。ただ、芸人はどんなことでも芸の肥やしにするもので、女性とのゴタゴタさえも、最終的には落語に活かしてしまうようなところがありました。
家族との関わりについても多く触れられています。母親、父親との関係や、また自分の息子に関する騒動なんかにもかなりページが割かれます。家族じゃないけど弟子との関わりもきちんと描かれていて、円朝の人柄が随所に表現されています。
僕は本作がきっかけになって、落語に少しずつ興味が湧いてくるようになりました。落語に特に関心のない人でも楽しめる作品だと思います。
買ってしまいましたよ。デアゴスティーニから出ている「隔週刊 落語百選DVDコレクション」の創刊号。パートワーク誌にだけは手を出すまいと思っていたのに...。
「赤めだか」が話題になり、酒飲み書店員大賞が「ファイティング寿限無」に決まり、今回紹介する「円朝」が河出文庫から復刊したり...。僕の中で落語が気になる時期だったんです(もちろん全部読みました)。そんな時にですよ、デアゴスティーニさん、「落語百選」なんか創刊しちゃいけないですよ。買っちゃうじゃないですか。まったくです!
調子に乗って、立川談志の古典落語のDVDも買いましたよ。「子ほめ」と「粗忽長屋」を聞きましたけど、これが上手いのなんの!「子ほめ」は「落語百選」の創刊号のものと比較しましたが、やっぱりレベルが違いましたね。観客を自ずと惹きこんでいくその話術には驚かされました。落語を語る談志から、気迫の塊を感じました。
「円朝」は、近代落語の祖と呼ばれる三遊亭円朝をモチーフにした小説です。著者の祖父が円朝の幼なじみだったこともあり、著者だからこそ書けた円朝一代記となっています。
円朝の凄さは、名人上手が束になっても足元にも及ばなかったと言われるほどであり、寄席が掛かれば常に満員、客留めをしなくてはならないほどだったそうです。
大した落語家ではなかった父に、幼い頃たった一度だけ上げてもらった高座が忘れられず、母の反対を押し切って落語家を目指した円朝。メキメキと力をつけて真打ちになるも、そのお披露目会で、その日の演目を師匠に先にされてしまう。それが幾日も続き困った円朝は、古典をやるから真似されるのだと気づき、新作をひっさげて高座に上がった。
これが当たった。円朝は江戸中で人気を博し、円朝の看板が掛かれば客が押し寄せてくるまでになった。
しかし円朝は悩む。鳴り物や背景に頼らず、余計な装飾のない素話一本で勝負すべきなのではないか、と。悩みぬいた末に素話のみに転向した円朝は、一気に人気を失って行く。しかし円朝は落語と真剣に向き合い、やがては当代随一と呼ばれる落語家へと成長していく。
若くして天才と呼ばれ、多くの客を惹き込み、後々近代落語の祖と呼ばれるまでになった円朝も、しかし多くの悩みと対峙しながらの人生だったわけです。一方、落語一辺倒だったというわけでもなく、特に女性関係では様々に苦労することになります。ただ、芸人はどんなことでも芸の肥やしにするもので、女性とのゴタゴタさえも、最終的には落語に活かしてしまうようなところがありました。
家族との関わりについても多く触れられています。母親、父親との関係や、また自分の息子に関する騒動なんかにもかなりページが割かれます。家族じゃないけど弟子との関わりもきちんと描かれていて、円朝の人柄が随所に表現されています。
僕は本作がきっかけになって、落語に少しずつ興味が湧いてくるようになりました。落語に特に関心のない人でも楽しめる作品だと思います。
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- 中原ブックランドTSUTAYA小杉店 長江貴士
- 1983年静岡県生まれ。 冬眠している間にフルスウィングで学生の身分を手放し、フリーターに。コンビニとファミレスのアルバイトを共に三ヶ月で辞めたという輝かしい実績があったので、これは好きなところで働くしかないと思い、書店員に。ご飯を食べるのも家から出るのも面倒臭いという超無気力人間ですが、書店の仕事は肌に合ったようで、しぶとく続けております。 文庫・新書担当。読んでいない本が部屋に山積みになっているのに、日々本を買い足してしまう自分を憎めきれません。