『エンダーのゲーム』オースン・スコット・カード
●今回の書評担当者●マルサン書店仲見世店 小川誠一
もう4回目の登場となります。静岡県沼津市マルサン書店小川と申します。
「本の紹介がほとんどなくて、ただお前のツマラナイ子ども時代のハナシばかりじゃないか!」というご意見、ありがとうございます。うーん、言われてみれば確かに...。子どもの頃本をまったく読まなかった人が大人になって急に読むことはあまりないと思います。ゾウを見たことが無い人が、ゾウの絵を描くことが出来ないように...。
ということで、読者体験というのは特に子どもの頃影響を受けた本に由来し、大人になっても心に残りそしてそれを糧に成長していくのでは? と最近思い始めました。例えばSFを読んだ事の無い人に、SFの面白さを伝えることの難しさは......うーん、至難の業ですね! まったくこのジャンルに興味がないのですから、どうにもならない。
しかし興味を持つチャンスは今までにも何度かあったはず。その時今からご紹介いたします『エンダーのゲーム』に出会っていたら、人生ひっくり返るほどの衝撃を持ったに違いありません。
特に男子。そういう事に敏感なオトコノコは必ずと言っていい程、「自分が考えていることは周りのみんなは絶対理解できないし、オレってスゴイかも?」って......思い込んでませんでしたか? いまで言う中二病ですかね(死語?)
え? ホントに? 思ってなかったって? いやいやいやいや正直に言おうよ。
本当は......今でも......ほんの少しでも......思っているでしょ?
そういった男子たちがハマるのが「サイエンス・フィクション」。
男子たちはたぶん何度も「あっ、この作者オレのアイデアをパクっている!」とか「この設定、アノ作品だよ。知ってるよ。」とか、もう言いたい放題ですよね。気の合う友人とそんな話で盛り上がると時間も空間も飛び越えちゃいます。
そんな中2病(死語?)患者たちが、いまでも大絶賛しているのがこの『エンダーのゲーム』です。
【あらすじ】
地球は恐るべきバガーの二度にわたる侵攻をかろうじて撃退した。容赦なく人々を殺戮し、地球人の呼びかけにまったく答えようとしない昆虫型異星人バガー。その第三次攻撃に備え、優秀な艦隊指揮官を育成すべく、バトル・スクールは設立された。そこで、コンピュータ・ゲームから無重力訓練エリアでの模擬戦闘まで、あらゆる訓練で最高の成績をおさめた天才少年エンダーの成長を描いた、ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞作!
出だしは少々スローでヘビー。リズムにノッてきた中盤からラストで明かされる驚愕のファイナルアタック! まさにジュブナイルスペースアドヴェンチャーの決定版。世界中の少年たちが大人になっても引きずっている作品です。どのあたりが若い読者(少年の心を失っていない大人も入ります)にウケたかじっくり考えてみると......。
1 USJ(?)でOPENしたら絶対人気アトラクションになるだろうバトル・ルームでの戦闘訓練方法
2 子供たちに未来を託す大人たちの期待
絶対この2点です。間違いない!
バトル・ルーム(無重力エリアでの模擬戦)でエンダーが考え、実行した戦術は今読み返してもオドロキの攻撃方法です。リーダーシップを発揮し、バラバラだったチームメイトたちを掌握し、バトルに勝利する。この過程を何度もジワジワ味わえる幸福感は他にはありません。本書の解説にアメリカ海兵隊がリーダーシップ演習の教材として使用しているという記述にも十分頷けます。
目まぐるしく変化し続ける現代、そこに生きる私たちはこの世界がどうなっていくのか予測することさえ難しい。でも僕たちは一生懸命生き続けなければならない。苦しい特訓やいじめにも耐え、信頼しあえる最強の仲間たちと一緒に侵略戦争に勝利したエンダーは「やり抜く力の大切さを身をもって示してくれたヒーローでした。
- 『断絶への航海』ジェイムズ・P・ホーガン (2017年7月6日更新)
- 『われはロボット 決定版』アイザック・アシモフ (2017年6月1日更新)
- 『宇宙の戦士』ロバート・A・ハインライン (2017年5月4日更新)
- マルサン書店仲見世店 小川誠一
- 1968年生まれ。SF・冒険小説が大好き。最近は読むスピードが落ちているのが悩み。