『ワンダードッグ』

●今回の書評担当者●大熊江利子

ネコ派の皆様。申し訳ございません。私はイヌ派でございまして、本日はイヌ本を紹介致します。もちろんネコも大好きですので、かなりイヌ馬鹿表現だったとしても多めに見てくださいませ。

映画化・ドラマ化・アニメ化。メディア化が決まるとその商品の売上がぐんと伸びます。それに頼りきるのは望ましくありませんが、正直、売上目標を左右する重要な戦略ポイントであることは確か。一生懸命にメディア化の商品を特集するコーナーを作ったり、出版社さんから頂いた販売促進用のDVDを流したりします。

昨年の販促DVDで一番の人気だったのは、「マリと子犬の物語」ですね。小さなお子様のお客さまが何人も集まって、まさにかぶりつき。お父さんやお母さんに連れ戻されながらも、
「やだあ、マリ見るうううう」
と大泣きしたお子さまもいました。

涙を流したのはお客さまだけではありません。コーナーの正面にはレジがあって、どうしてもDVDが視界に入るのです。アルバイトさんと
「大熊さん、マリ、ヤバイです。涙が止まりません。。。」
「私もだよ。。。」
懸命に目をそらしつつ仕事をしていました。

イヌは映画化作品、ネコはネット発の企画写真集が元気が良いですね。春に始まる「犬と私の10の約束」にも大きく期待しています。
メディア化されていない作品の中にも、名作はたくさんあります。今紹介するならこの本。「ワンダードッグ」です。

入学式に遅刻した甲町源太郎は、1匹の捨てイヌを抱えていた。そのイヌを学校で飼うために、ワンダーフォーゲル部に入部します。(命名。ワンダーフォーゲル部なのでワンダー)

教頭先生を筆頭に、学校でイヌを飼うことを反対る大人達を相手に、「自主・自覚・自立」の学校の教育理念の元、廃部寸前のワンゲル部が奮闘します。
(←どうでもいいですが、こういうときに悪者になるのは、たいてい教頭先生なのはなぜなんでしょうね)
ワンダーにかかる費用の一部にしようとワンダー募金を始めたり、ワンダーに関する校則を定めたり、ワンダーの学生証をつくったり。

甲町は卒業して次の部員の世代となり、女子部員千草由貴が入部。千草はワンダーを一部放し飼いにしてやりたいと部活動に熱心に取り組み、ワンゲル部は大会で好成績を収めるようになります。

そして甲町が教育実習生として学校に戻ってきます。

とてもシンプルで素朴な小説です。当たり前で、だからとても愛しい毎日を描いています。それでいい。そこがいい。この本が大好きです。

買う前に見た、帯の言葉だけで幸せな気持ちになれました。
買わずにはいられませんでした。
「彼らのそばにはいつも、茶色くて人懐っこい犬がいた。」
素晴らしい!これは名文でしょう!

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大熊江利子
大熊江利子
好きなジャンルはミステリー・青春・時代・ファンタジー・SF・ライトノベルなど。本棚に入りきらず部屋の床にじか積みしてある本は、震度3で崩れるので、地震のときに大体の震度がわかります。