『鎮火報』

●今回の書評担当者●大熊江利子

春ですね。入社して7年たちました。現在の店は3店舗目です。不思議なことに、どの店に異動しても、一人か二人はものすごく本に詳しい人がいますね。「どんな本を読むんですか?」「その作家が好きなんですか。じゃあこの作家は?」「やっぱりー好きだと思った。私も大ファンで・・・」と散歩のときにすれ違うイヌがくんくん相手をかぎあうように、お互いのフィールドを確認します。

やがて、「今月は文庫これ買おうと思うんですけど」「私はこれとこれと。」「それは迷ってる!面白かったら感想聞かせてくださいよ」などと意見交換をしてみたり。その延長線上に、「じゃあ、新刊落ちで平台残すのはこれで行きますか」「こっちは売り切りで」「これは前の巻を並べて動きを見てから追加しましょう」と仕事の話が出てきたり。

仕事なんだか趣味なんだか趣味なんだか。(いや、勿論仕事なんですが)だんだん過熱してくると、自分の薦める本がどれだけ相手をはめることができるか勝負になってきて。

で、今回強力にお薦めされたのが、「鎮火報Fire'sOut」です。

主人公は冷めて皮肉屋な(フリをした熱血馬鹿)消防士(元不良)、大山雄大(読みは'たけひろ'。あだ名はゆうだい)。亡き父親と同じ職業である消防士になったが、できるだけ速やかに日勤9時5時の事務に移りたいと思っている(と主張している)20歳。現場に到着すれば、あー嫌だや嫌だ入りたくねーと心の中でぼやきながらも、炎と煙の立ちこめる建物に飛び込んでいきます。連続する外国人アパートの火災に疑問を覚え、休日に現場を回っているうちに。。。

またまた私の大好きなメフィスト賞作家です。元が単行本で出ていたからノーチェックでしたが、こんなにアツイ話だったとは!消防モノというと小学館コミック「め組の大吾」が有名ですが、同じぐらい興奮します!

雄大の周りを固める登場人物が魅力的!イチオシは、雄大の父親に命を助けてもらった過去を持つレスキューサイボーグこと仁藤さん。なにかと雄大をかまっては、ミスを小姑のようにつつきまわすのですが、本当は雄大のことをとっても気にかけているんです。優雅な引きこもりの美(?)中年の守は乙女のように甘えん坊で、雄大の所属する赤羽台消防1隊長である藤田のオヤジも、のほほーんといい味出してます。

仕事帰りで疲れてふらふらしているときでも、読むと体温が一度上がって、元気になる本です。思わず、日明恩の本全部買っちゃいました。Oさん、大変面白かったです。今回は完全に負けました。また今度お薦め本を紹介しあいましょう!

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大熊江利子
大熊江利子
好きなジャンルはミステリー・青春・時代・ファンタジー・SF・ライトノベルなど。本棚に入りきらず部屋の床にじか積みしてある本は、震度3で崩れるので、地震のときに大体の震度がわかります。