『昼のセント酒』久住昌之
●今回の書評担当者●喜久屋書店宇都宮店 大牧千佳子
寒い日が続きますね。冷たい風に身も心も縮こまってしまうような日、お風呂で手足を伸ばして冷えも疲れもお湯に溶けていく感じ。ごちそうですね。
おうちのお風呂もいいけれど、ひろーい湯船に高い天井、カコーンと響くケロリンの音。銭湯ってのはいかがでしょう。
『昼のセント酒』は真昼間の銭湯、そして銭湯上がりの真昼間のビールっていう至福のひとときを気ままな街歩きの軽快さで楽しませてくれる一冊です。
「銭湯で蘇生され、オヤジながら新品同様になった俺が、全面的にビールを迎えいれている」
なんてのを読んだら、なにもかも放り投げて銭湯にいきたくなりますよ。銭湯あがり新品同様ぴかぴかの自分。そしてそこからのビール、必ずやうまい。
久住さんがいろんな街へと出かけて行ってさまざまな銭湯に入り、その後ほかほかが冷めない距離の飲み屋さんへ入る。冷えたビールをぐいーっと飲って、飲みすぎないうちにさっと帰る。もうそのどれもがぜんぶうらやましい。銭湯も飲み屋さんも地元密着型であるのに飄々となじんでらっしゃる。
いろんな銭湯の様子がわかるのも楽しい。銭湯好きといっても、やはりご近所のいきつけがあれば事足りるので、一軒二軒の経験値しかない自分にとっては、よその銭湯がどんな感じなのかってわかるのがうれしい。時代を感じる建物から近代的なビルのなかのものまでタイプはさまざま。番台形式なのかフロントなのかってのも気になるところ。注意書きのはり紙ですらくすっときちゃう。特に気になったのは壁画。たいていは富士山みたいですけれど、私のいきつけだった銭湯は金髪の人魚姫のタイル絵でした。しかし女湯にしか入れませんので、男湯の絵がなんだったのかはいまだに謎です。もしかしたら富士山だったのかもしれません。
銭湯に関する読み物って楽しいものが多いですね。
墨田区さくら湯のご主人星野剛さんの書かれた『風呂屋のオヤジの番台日記』も銭湯の豆知識から世相やご近所の方々とのエピソードなどが江戸っ子口調で書かれていて、面白かった。さくら湯もいつか行ってみたい銭湯です。
堀ミチヨさんの『女湯に浮かんでみれば』ではかしましい女湯の様子に圧倒されたり、銭湯好きで好みがあうのか、私の好きな映画「こころの湯」が紹介されていてうれしかったり。
益田ミリさんの『女湯のできごと』では銭湯へ行ったことがある人なら「あるある」と言ってしまいそうな出来事がたくさん。たとえば知ってる顔のおばちゃんと街中ですれ違って、よくよく考えたら銭湯のおばちゃんだったとか。こどもがお母さんだと思って洗い場で背中に声をかけたら知らないよその人でびっくりとか。
『昼のセント酒』は読めば読むほど真似してみたくなります。久住さんの入る銭湯も飲み屋さんも「く~っ」ってかんじのたまらない気持ちよさでいっぱいなので、ふらっと出かけてみたくなります。一日自由になったら、タオルと石けんもって昼からセント酒してみたいですね。
- 『「金の船」ものがたり 童謡を広めた男たち』小林弘忠 (2011年12月29日更新)
- 『三陸海岸大津波』吉村昭 (2011年12月1日更新)
- 『舟を編む』三浦しをん (2011年10月27日更新)
- 喜久屋書店宇都宮店 大牧千佳子
- 本屋となっていつのまにやら20年。文芸書と文庫を担当しております。今の店に勤めて6年目。幼い頃、祖母とよく鳩に餌をやりにきていた二荒山神社の通りをはさんだ向かい側で働いております。風呂読が大好き。冬場の風呂読は至福の時間ですが、夢中になって気づくとお湯じゃなくなってたりしますね。ジャンルを問わずいろいろと、ページがあるならめくってみようっていう雑食型。先日、児童書担当ちゃんに小 学生の頃大好きだった児童書『オンネリとアンネリのおうち』(大日本図書版、絶版)をプレゼントされて感動。懐かしい本との再会というのは嬉しいものです。一人でも多くの方にそんな体験をしてほしいなあと思います。