『ゴロツキはいつも食卓を襲う』福田里香
●今回の書評担当者●喜久屋書店宇都宮店 大牧千佳子
食べ物をのどにつまらせて焦る人。
そう聞いて真っ先に思い浮かぶのは、誰でしょうか?
ご隠居と旅をするうっかりしたあのひと? 国民的アニメのエンディングのあのひと? ドラマや映画、アニメの世界、いろんなところでお目にかかるつまらせてしまう方々。おっちょこちょいでマヌケだけれど憎めないキャラクター。もし、悪役だったとしても、食べ物をつまらせて焦っているのを見ただけで、こいつは下っ端で本当の黒幕はほかにいるんじゃないか? なんて思ってしまいませんか?
食べ物を使用することによって演出された表現は、共通認識を的確に操作し、多くの情報を視聴者に理解させることができる。その手法を古今東西のエンターテインメントから紹介しその効果について解説しているのがこの「フード理論」、そして誰もが思い浮かべてしまうほど定番となっているシチュエイションに登場する食べ物が「ステレオタイプフード」なのです。
つまり「あるあるある!!」と際限なく叫びたくなるようなことが、次から次へとこの本の中に出てきます。
バナナの皮が落ちてたら? カーチェイスの先に果物屋があったら? 倒れている人の口元からアーモンドの香りがしたら? 越後屋が菓子折りを持ってきたら?
どこかで見たシーン、ベタの宝庫、「またやってるよ」って言いたくなるようなそれでいて一発で状況やその先の展開を想像しやすい演出。そこに含まれる意味、制作側の意図。こういうのを理論だてて誰かまとめてくれないかしら。それを成し遂げてくださったのがこの著者、福田里香さん。
この方お菓子専門の料理研究家でいらっしゃるそうです。しかもかなりの映画好きドラマ好きとお見受けいたします。その知識の量たるや相当なもの。そしてご職業がらでしょうか、その焦点が食べ物にピタリと合わされていて、福田さんの視点によってより鮮やかに作品世界を見せてくれるのです。すごい書き手です。斬新な論調に目からウロコです。
特に興味深かったのは宮崎駿監督作品についてのフード理論。これを読んだら、ナウシカもラピュタも何度見たかわからないという方でも、必ずや今一度見直さなければならないと強く思うことでしょう。
- 『紙の月』角田光代 (2012年3月22日更新)
- 『しょうがない人』原田宗典 (2012年2月23日更新)
- 『昼のセント酒』久住昌之 (2012年1月26日更新)
- 喜久屋書店宇都宮店 大牧千佳子
- 本屋となっていつのまにやら20年。文芸書と文庫を担当しております。今の店に勤めて6年目。幼い頃、祖母とよく鳩に餌をやりにきていた二荒山神社の通りをはさんだ向かい側で働いております。風呂読が大好き。冬場の風呂読は至福の時間ですが、夢中になって気づくとお湯じゃなくなってたりしますね。ジャンルを問わずいろいろと、ページがあるならめくってみようっていう雑食型。先日、児童書担当ちゃんに小 学生の頃大好きだった児童書『オンネリとアンネリのおうち』(大日本図書版、絶版)をプレゼントされて感動。懐かしい本との再会というのは嬉しいものです。一人でも多くの方にそんな体験をしてほしいなあと思います。