『ラスト・チャイルド』ジョン・ハート
●今回の書評担当者●有隣堂川崎BE店 佐伯敦子
海外ミステリー。最近は、昔ほど、読まなくなりました。高校生の頃は、お決まりのように、エラリー・クイーンやアガサ・クリステイにはまり、学校の図書館にあった本を片っ端から、読んだ想い出があります。外人イコール、おしゃれでかっこいい。たぶん、そんな風に思い込んだところもあって、海外文学大好き少女でした。
海外ミステリーといえば、最初に出てくるあの登場人物の紹介。あれがあるから、"面倒くさい"と感じる人と、"うんうん、大切だよ"と思う人がいて、私はもちろんの後者。誰が、キャサリンで、誰が、ロバートか、きちんと把握しておかないと、先に進めないのが海外もの。
書店で、働き始めた頃は、シドニィ・シェルダン最盛期。巨匠ロバート・パーカー、ディック・フランシス、ジェイフリー・アーチャー、アーサー・ヘイリーなどの作品も売れに売れた頃。海外文学の棚は、元気に活動していました。
今回は、『川は静かに流れ』のジョン・ハートの新作『ラスト・チャイルド』を紹介しようと思います。行方不明になった双子の妹、アリッサを探し続けるジョニー・メリモン、十三歳。メインテーマは、ずばり「家族」。どこの国でも、いつの時代でも、「家族」というものは、本当にやっかいなで、イタイものらしい。妹が突然、行方不明になり、後を追うように父親まで、消息不明になってしまいます。残された母親は、お金のために、地主のモト彼に媚を売り、薬と酒と絶望の日々。少年は、失なわれた自分の家族を何とか取り戻そうと、妹を探し続けます。そして、ある事件に巻き込まれ、最後には全ての真実を知ります。
昔、番組名は忘れてしまったのですが、浅野ゆう子さんが"嫁"として出演していたテレビドラマで、その家のおじいちゃん役の俳優が、「家族っていうのは、この世で一番大切なものなんだよ。外でどんなにいやなことがあっても、家族がいれば、頑張れるし、我慢できる。」と孫息子に教え諭す場面があって、ああ、そうだよなと思ったことがありました。
家族が崩壊するということは、その人にとって、人生の全てが崩壊することなのでは、ないでしょうか。 ジョニーが、妹探しの延長で巻き込まれてしまう事件も、犯罪大国アメリカでは、「あるんだろうな、こういうことが。」と思わず、目をつぶりたくなるようなシーンばかり。イーストウッド監督の撮った『チェンジリング』という映画を思い出してしまいました。だから、怖いのですよ。アメリカは。すぐに拳銃は、出てくるし、可愛い子供は、『ラブリーボーン』みたいに、どこかに連れていかれ、戻ってこない。
家族というものは、本当にガラス細工のようなもので、壊されて、くだけて粉々になって、どれだけ大切なものなのか、思い知るのだろうと思います。自分も両親の不仲に悩まされた子供時代は、家族の再生を願ったものでしたが、壊れたものは、たいてい元には戻らないということに気づくばかりでした。けれども、人はその想いを未来のために、違った形の新しい希望に変えていかなければいけないのです。最後のセリフは、たぶんそういうことなのだろうと思いました。
- 『太陽のパスタ、豆のスープ』宮下 奈都 (2010年5月6日更新)
- 有隣堂川崎BE店 佐伯敦子
- 江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが大好きで、登下校中に歩き読みをしながら、電信 柱にガンガンぶつかっていた小学生は、大人になり、いつのまにか書店で仕事を見つけました。あれから二十年、売った本も、返品した本も数知れず。東野圭吾、小路幸也、朱川湊人、宮下奈都、大崎梢作品を愛し、有隣BE姉、客注係として日夜奮闘しています。まだまだ、知らないことばかり、読みたい本もたくさんあって、お客様から、版元様から、教えていただくことがいっぱいです。