『だいたい四国八十八ヶ所』宮田珠己
●今回の書評担当者●有隣堂川崎BE店 佐伯敦子
前代見聞の(が、しかし以前にも、M善川崎Lーナ店さんは、やられていましたが。)"この本、ご購入いただいて、面白くなかっ
たら、ご返金いたします"、キャッシュバックにつられにつられ、ついつい購入してしまいました。
そもそも、返金保証って、書店であり?なのか? そりゃあ、昨今、一冊単行本を購入すれば、二千円近くのお金がお財布から、羽ばたいていくのですから、たまに「お金・・返してくれないのかなあ。」と感じる一冊に出会う時もあります。
私が子供の頃などは、ご近所の本屋さんで立ち読みしようものなら、すかさずハタキでバンバン威嚇され、「読まないで、ほら。」と仁王立ちで立ちはだかるその店の主に、睨まれたものでした。駅前の本屋さんならば、もう少しゆるいのでは?と足を伸ばせば、夏は開けっ放し、冬は石油ストーブをガンガンたいた小さな店内は、いつでも常夏状態。
「この暑さの中、読めるものなら読んでみい。」
と店番のメガネのおばちゃんの無言のアピール。立ち読みは楽じゃない。
高校生になって、定期券というものをゲットし、街の大きな本屋さんで好きなだけ、立ち読みを満喫。スリップを栞代りにして、連日続行。街の大きな本屋さんは、本当に心が広い!と感動しました。(そして、まさかの今の職場です。)
で、キャッシュバックに話を戻すのですが、購入当時の私は、それはもう返品する気満々。
「身元がばれたら、良識を疑われるよ。」と同僚からの心ある助言も全く無視して、いそいそ、読書開始。
そもそも、お遍路ものなど、まるで興味がない。興味があるのは、返金保証。そこからして、動機が不純だなと思いつつも読み始めたら、これがなんとめちゃくちゃ面白い。
お遍路とは? 人生を見つめ直すために、何か大切なものを探し直すために、白い衣装に身を包み、厳かに旅をする。そんな暗いイメージを抱いていたのだが、このお気楽さ、バリバリの観光者気分、まあ、とりあえず行っちゃっとく?みたいな雰囲気が何とも言えない。
大体、お遍路を歩くのに、こうも自販機とか、足のマメとか靴下の心配をしなければいけないものなのか? 地元の方々の"お接待"も微笑ましく、まだ日本のどこかには、のんびりと牧歌的に人をもてなそうという気持ちがあるのだなと心が温かくなりました。
見知らぬお遍路仲間との出会い。彼らが、競う健脚自慢。この本を読むと、これといった信仰心がなくても、お遍路やっちゃおうかという気持ちになってきます。
人というのは、あまり物事を考えすぎるのは、もしかしたらよくないのかもしれません。頭を空っぽにして、歩いて歩いて歩き続ける。自然を楽しみ、人々の温かさに触れる。
やはり、返本せずにとっておこう。 だって、とっても面白かったから。
- 『怒らない技術』嶋津良智 (2011年1月6日更新)
- 『マボロシの鳥』太田光 (2010年12月2日更新)
- 『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』橘玲 (2010年11月4日更新)
- 有隣堂川崎BE店 佐伯敦子
- 江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが大好きで、登下校中に歩き読みをしながら、電信 柱にガンガンぶつかっていた小学生は、大人になり、いつのまにか書店で仕事を見つけました。あれから二十年、売った本も、返品した本も数知れず。東野圭吾、小路幸也、朱川湊人、宮下奈都、大崎梢作品を愛し、有隣BE姉、客注係として日夜奮闘しています。まだまだ、知らないことばかり、読みたい本もたくさんあって、お客様から、版元様から、教えていただくことがいっぱいです。