『獄門島』横溝正史
●今回の書評担当者●丸善津田沼店 酒井七海
たまには、こんなのどうでしょう。
金田一!
みなさん、好きですよね??
え、金田一君?? かめなしくん?? 堂本剛でもないの? いや、しらんけど、それ孫ね、孫。
元祖金田一シリーズは『八墓村』から始まる横溝正史原作のものであります。(若い方向けに一応ご説明)
当時、たいへんな人気を博したこのシリーズは市川崑監督と石坂浩二のタッグによって、何度も映画化。一代ムーヴメントを引き起こしたのでした。(この映画も日本映画史に残る大傑作!)
数ある名作のうち今回は『獄門島』のご紹介を。いや、たんに自分が最近読んだからっていうだけだったりするのですけど。
金田一シリーズの魅力は、主役金田一のキャラというのももちろんあるのですが、わたしはなんといっても小道具と舞台設定にこそあるのではないかと思っております。
瀬戸内海の中ほどにある切り立った小さな島"獄門島"。それがこちらの作品の舞台。
外観だけでも、人を容易には寄せつけない雰囲気ですが、さらに江戸時代には罪人の流刑場となっていたというのだから、ますますおどろおどろしい。
一瞬にして、荒れ狂う波にうたれる断崖絶壁と、貧しそうな掘建て小屋がぽつりぽつりと建つ、寂しげな島が目に浮かびます。
その獄門島出身の戦友が、無念の戦死をする際に金田一に託したのが、島で暮らす自分の妹たちを助けてほしいということ。
なんのことやらわからずも、そこは金田一耕助。もちろん行きますよ。彼の地獄門島へ。家族に息子の戦死を伝えると村はなにやらいっぺんに不穏な空気に......。
ところでその家族もかなり変わっていて、主亡き後、残っているのが妾のばあさんと、従兄弟で家のことをすべて切り盛りしている早苗、以上なほどに美しい3人の妹たち。それから謎につつまれた"気ちがい"の父。(地下牢に幽閉!)
金田一が村の人たちとすごしながら、少しずつ様子をさぐっていく間に第1の事件が......。というストーリー。
さてその小道具ですが、のたくった文字が書かれた衝立や、一人では運ぶことができない釣り鐘、とある恋文、極彩色の帯、梅の古木、妖しげな祈祷師の離れ......などなど、劇的に印象深いものがたくさんあり、雰囲気をどんどん盛り上げてくれます。
これがもうたまらない。
ひとつ情景が浮かぶたびに、そこになにやら緊張とときめきに似たようなものが生まれて、早く先が知りたい! と読み急いでしまう。
これぞ極上のエンターテイメントじゃないでしょうか。人間に生まれてよかった!
だって、夜中にポテトチップスをぱりぱりしながら、金田一シリーズを読むことの贅沢さはうちの猫どもにはわからんのですよ。あーかわいそう。
シリーズ、25作もあるから冬の長い夜もたっぷり楽しめます。
さて次はどれを読みましょう!
※文中、不当・不適切と思われる語句や表現がありますが、作品発表時の時代背景と文学性を考え合わせ、そのまま使わせていただきました。なお、夜中のポテトチップスぱりぱりに関しましては、その背徳性は充分承知しておりますが、ご意見ご助言などは一切承っておりませんので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
- 『沈むフランシス』松家仁之 (2013年11月7日更新)
- 『いつも手遅れ』アントニオ・タブッキ (2013年10月3日更新)
- 『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』レイチェル・ジョイス (2013年9月5日更新)
- 丸善津田沼店 酒井七海
- 書店員歴やっと2年の新米でございます。本屋に勤める前は、バンド やったり旅 したりバンドやったり旅したりして、まぁようするに人生ぶらぶらしておりました。とりもどすべく、今は大変まじめに働いております!本を読む ことは人生で 2番目に好きです。1番目は音楽を聴くことです。音楽と本とときどきお酒があればだいたい幸せです。