『殺人犯はそこにいる』清水潔
●今回の書評担当者●丸善津田沼店 酒井七海
大変な本を読んでしまった。
実は先月の頭には別の本を決めてあった。
これは書かなければっ!という本を読んだので、がぜんはりきって原稿用紙なんじゅう枚ぶんもの気合いの入った書評を書くつもりでいたのだ。
だがしかし......この本を読んだ。読んでしまった。
読んでしまったら、やっぱり書かないわけにはいかない。
もう既に朝日新聞の書評をはじめ様々なところで書かれているので、内容については専門の方々が書いたものを読んでもらうとして、わたしはただの一般人として思うところをお伝えしたい。
世に言う「足利事件」。
一般的には、絶対と言われたDNA鑑定が覆り、警察や法廷の怠慢、欺瞞、不確かさが露呈された冤罪事件として認識されているのではないか。
だけどこれが5件もの連続誘拐事件であり、殺人事件であって本当の犯人は今も捕まっていないということまで知っている人がどれくらいいるのだろう。
報道は嘘は言っていないかもしれない。
でもすべてを伝えていない。
そういうことを暗にわかっていても、実際の事件で何が起こっていたのかなんて、あえてつっこんで調べるようなひまは普通の人にはないし、はっきり言って考えることもない。
でも、世論が騒がなければ葬られてしまうことも残念ながらこの社会にはあるようで......。
自分自身この事件がその後どうなったかなんて考えもしなかった。正直言って遠い過去の出来事であり、誰が何人殺してようが関係なかったのだ。
なぜなら、殺された子供たちの顔が見えなかったからだ。
顔が見えない子たちはわたしにとってただのどこかの女の子でしかなく、幼女殺害という残忍極まりない行動も、物語の中の域を出なかった。
だけどこの本を読んでたくさんの、本当にたくさんの隠されていた真実を知った。
それを知ったとたんに、突然わたしの知っている顔がうかんできた。
あの子や、あの子やあの子が、知らない男に連れさられ傷つけられ捨てられる。犯人の欲望のためだけにゴミのように捨てられて、短い人生の最期を暗い河川敷の生い茂る葦の中で迎えた子たち。
どれだけ怖かったろう。寒かったろう。何度お母さんを呼んだだろう......。最期の瞬間その目に何を見たのだろう。
いまこの瞬間にも普通の暮しをしている犯人のことをはじめて考えた。
許せないというより、信じられなかった。
そんなことが起こりうるんだという想い。
著者、清水記者は終わっていないと言う。
そうだ、終わっていない。犯人は捕まっていない。
なぜ動かない、警察よ。
冤罪だったとわかりました釈放しますはいおしまい......じゃない。
犯人が捕まっていない。
ここに書かれていることが本当なら、わたしは我慢がならない。
なんのための警察なのだ。
"一番小さな声を聞け"
どうか清水さんのこの言葉が届きますように。
わたしにできることはそれを願い、この本を売ることだけです。
一人でも多くの人に知ってもらうことが、この事件を動かすことにつながると思うので。
- 『冬虫夏草』梨木香歩 (2014年2月6日更新)
- 『村田エフェンディ滞土録』梨木香歩 (2014年1月9日更新)
- 『獄門島』横溝正史 (2013年12月5日更新)
- 丸善津田沼店 酒井七海
- 書店員歴やっと2年の新米でございます。本屋に勤める前は、バンド やったり旅 したりバンドやったり旅したりして、まぁようするに人生ぶらぶらしておりました。とりもどすべく、今は大変まじめに働いております!本を読む ことは人生で 2番目に好きです。1番目は音楽を聴くことです。音楽と本とときどきお酒があればだいたい幸せです。