『海賊女王』皆川博子
●今回の書評担当者●丸善津田沼店 酒井七海
これ! わたしが先月から書きたかったのはこれなのである。
この年末年始の読書は、おかげでほんとーっに楽しかった。
わたくしごとだが、人生のとある時期1年間だけアイルランドにいたことがあった。語学留学という名の遊学であります。
夜な夜な繰り広げられる、パブでの飲めや歌えやの騒ぎに繰り出す楽しさったら......。おっとっと......べんきょーもしてましたもちろん。(ぼうよみ)
先住民であるケルト人たちと、イギリス文化、カトリック文化が混じり合って、小さいながら唯一無二の個性を持っている島。お酒だけじゃないんだな~。
アイルランド(ケルト)の本と聞けば、なんでもかんでも手にとりたくなってしまう私ですが、この本はハードルが高かった。なんせ上下巻合わせて4千円。
それだけでも充分諸事情によりあきらめねばならない類の御本だが、更に! 最初のページをめくるとそこには登場人物一覧が......。
おそらくここで挫折する人、ほとんどだと思う。
いまね、数えてみましたよ。ぜんぶ。
ひーふーみーよー......と手の指がいくつあっても足りゃんせん。
ざっと、なんと! 73人おった! 73人!!
やー......しかもこれ全部じゃないのだ。ちょい役なら他にもわらわら。やめるよね......。
でもね、わたしは買いましたよ。しかも上下巻一気に。
なぜって......やっぱりストーリーにどうしょうもなく心惹かれるものがあったから。
「最後までイングランドに屈しなかったゲールの女王」
「あの女を呼べ。彼女ならわかる。女王の孤独を」
これ帯の文句。
立場的には対立している二人の女王、エリザベス(英国女王)とグラニュエル(海賊女王)かたや、イングランドの重責をひとりで担い、アイルランド統一もやり遂げようとしている、孤独な女王。かたや、ケルト民族の誇りと伝統を守りつつ、攻め込んでくるイングランドや他の部族から自信の部族を守ろうと立ち上がる孤高の女海賊。両者は決してお互いに屈しないながら、心の深い部分でどうしても共鳴してしてしまうところがある。その闇の深淵が垣間見える瞬間がすごい。
読み始めて本当にすぐのめり込む。
ストーリーもさることながら、細部に至る描写がまたすごいのだ。
まるで、自分もそのときその場にいたかのように情景描写、心理描写が圧巻の筆致で書かれていて読み手を魔法のように運んでゆく。
例えば、従者アランがエリザベス女王に謁見するグローニャに付いていくシーン。
身につけている武器の類いは徹底的にはずすように言われる。
外側の重みをすべて取り外した後、体が軽くなったことを心もとなく思う場面がある。これが女王に会う前の心情をすごく丁寧にこちらの心にもわき上がらせてくれるのだ。その場にぐっと緊張感をもたらす。
いったい武器なんて手元にない世界に生きながら、そんな部分に気付けるだろうか......。著者の無限の想像力にはひれ伏すしかない。
戦闘シーンもまるでその場に降り立ってしまったかのよう。臨場感あふれる展開は手に汗握った。
皆川博子、彼女こそ文壇界の女王だ。御年84歳、まったく守りに入ってないどころか、攻めまくっているその文章を読んで、死ぬほどかっこいいと思ったのだ。
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- 丸善津田沼店 酒井七海
- 書店員歴やっと2年の新米でございます。本屋に勤める前は、バンド やったり旅 したりバンドやったり旅したりして、まぁようするに人生ぶらぶらしておりました。とりもどすべく、今は大変まじめに働いております!本を読む ことは人生で 2番目に好きです。1番目は音楽を聴くことです。音楽と本とときどきお酒があればだいたい幸せです。