『どこの家にも怖いものはいる』三津田信三
●今回の書評担当者●中目黒ブックセンター 佐藤亜希子
夏といえばホラーの季節。隙さえあればそういった系統の作品を並べているとはいえ、怖い作品を読んで内から涼しくなってもらおうという大義名分が立つのは素晴らしい。今年もどーんと大きく展開するぞー!と気持ちが高まりすぎた結果、他書店様と一緒に"ホラー好き書店員のホラーまつり2014夏"というフェアを開催することになりました。参加書店様、オススメ本などは当店のツイッターで紹介しておりますので、よろしければご覧くださいませ(@nakamebc もしくは #ホラまつ2014 にて)。
宣伝はいいとして、そのフェアで一緒に展開しているのが、三津田信三さんの『どこの家にも怖いものはいる』だ。三津田さんといえば、第10回本格ミステリ大賞を受賞した『水魑の如き沈むもの』(講談社文庫)を含む"刀城言耶シリーズ"を挙げる方も多いかと思うが、個人的には "三津田信三三部作"を始めとする、"三津田信三という作家が怪異に巻き込まれていくシリーズ"のほうに強い印象がある。何故なら、私がこんなにもホラー、怪奇作品を求めるようになったのは、『作者不詳 ミステリ作家の読む本』(講談社ノベルス)が全ての要因だからである。
小説という画も音もない文字だけの媒体で、物音がやたらと響いて聞こえる、シャワーを浴びているときに目を閉じたくない、背後に"なにか"の気配を感じる、そんな恐怖を覚えたのは、その作品を読んだときが初めてだった。読み進めるのが怖かった。作中の"三津田信三"が偽物なのか本物なのか、この作品はフィクションなのか真実なのかわからなくなり、今にも彼が巻き込まれている怪異がこちらに手を伸ばしてくるのではないかと心底怯えた。いやだ、こわい、いやだいやだ、そう思っても止められず、憑かれたように読みきったあとに残ったのは、もう一度、いや、何度でもその恐怖を味わいたいという奇妙な欲求。愛しい人を探し求めるように、あの感覚を追い続けた結果が今の自分だ。
そして、私はその感覚と本作のとある章で再会を果たすことになる。作家・三津田信三と編集者・三間坂秋蔵が、まったく別の話なのにどこか似ているような気がする怪異譚の共通点を探していく内に、同様の既視感を抱く奇譚が彼らの元に集まってきて......、というのが物語の本筋なのだが、その怪異譚の内容(家の中で起こり、怪現象に似ている箇所があるという程度しか共通する部分はない)が集ってくるごとにどんどん怖ろしくなり、次第に物語と現実の境界がひどく曖昧になってくる。作中の人物を襲う怪異が、まるで今そこで起こっているかのような錯覚に陥るのだ。あぁ、これだと思った。少しずつ、でも確実に"なにか"が私のすぐ傍へと忍び寄ってきているあの感覚。思わず「久しぶり」と微笑みたくなった。
こうして三津田作品への愛はますます募っていくわけだが、この前、中央公論新社の初めてお話しする方から「三津田信三さんをお好きな文芸書担当の佐藤さんはいらっしゃいますか?」という電話がかかってきたときは、さすがに恥ずかしくて消えたくなった。愛を叫ぶ場所はわきまえたほうがいい。
- 『恋地獄』花房観音 (2014年7月11日更新)
- 『白い部屋で月の歌を』朱川湊人 (2014年6月12日更新)
- 『夢幻紳士 怪奇篇』高橋葉介 (2014年5月8日更新)
- 中目黒ブックセンター 佐藤亜希子
- 自他共に認める熱しやすく冷めやすい鉄人間(メンタルの脆さは豆腐以下)。人でも遊びでも興味をもつとす ぐのめりこむものの、周囲が認知し始めた頃には飽きていることもしばしば。だが、何故か奈良と古代魚と怪奇小説への愛は冷めない。書店勤務も6年目にな り、音響専門学校を卒業してから職を転々としていた時期を思い返しては私も成長したもんだなと自画自賛する日々を送っている。もふもふしたものと チョコを与えておけば大体ご機嫌。