『「上から目線」の構造』榎本博明
●今回の書評担当者●丸善書店津田沼店 沢田史郎
先生と 呼ばれるほどの 馬鹿でなし
なんて川柳があるくらいだからね。やっぱり無駄にエラソーなのは、頭悪そうなんだよね傍から見ると。だけど居るんだよ、昔も今もどこにでも。勿論、あなたの隣にも。
何故あの人は、あんなにも威張っているのか? 何故俺は、アイツからこうも見下されなければならんのか? 一体アンタは、いつからそんなに偉くなったのか? 要するに、貴様は一体何様なのかっっっ!? 思わずそう問い質したくなる御仁が、誰でも一人や二人すぐに思い浮かぶでしょう? で、帰りの電車の中とか風呂に入ってる時とかに不意に記憶が甦ってきて、怒りを反芻してしまったりするでしょう? 厭だよねぇ、アレ。本書は、そんな時によく効きますぞ。
まず紹介したいのは、「上から目線」の人々が共通して抱いている心理の代表格。曰く
【世の中を勝ち負けの図式で見る傾向のある人は、人間関係も上下の図式で見ようとする。自分が勝っている、優位に立っていると思えればよいが、そうでないとき、このタイプは不安を強め、何とか優位に立っているかのように見せかけたいと思い、尊大なポーズをとる。自信がないため、人からどう見られるかがやたらと気になる。人の視線を過剰に意識する。そして、尊大な態度で自分の力を誇示しようとする】
何だよ、意外とナイーブじゃん(笑) そしてもう一つ「上から目線」の持ち主に目立つ性向として、
【「自分はこんなところでくすぶっている人間じゃない」とでも言いたげな心理】
ってのもあるそうで、その根本には、「理想通りにいかずに停滞している自分を受け入れられない」、「自分自身の実力不足、努力不足を認められない」、そんな人間がその不甲斐無い現実から目を逸らし、取り敢えず問題を先送りするための自己防衛反応であったりするそうだ。なんだかまるで、中島敦の『山月記』(新潮文庫ほか)だね。あの作品の中でおそらくは最も有名なフレーズ、【尊大な羞恥心】と【臆病な自尊心】っていうアレと「上から目線」の心理ってそっくりで、少々哀れに思えてきませんか?
自らが思い描く「理想の自分」のイメージに現実が追いつかず、「今は埋もれてるけど、俺が本気になればめっちゃ仕事出来るんだぜ」なんて自分を慰めて、その虚像を崩されまいと居丈高になって周囲に噛み付く......。どうにも虚しいっつーか寂しいっつーか、そんな生き方絶対嫌やわ、わし。
とまぁ脈絡もなく怪しげな関西弁になってしまったのは措いといて、とにかく本書を読み終わると、かつてはカチンときていた「上から目線」のAさんやらBさんの言動がなんだか不憫に思えてきて、大して腹も立たなくなること請け合いだ。更には、自分自身が「上から目線」にならないための、貴重な戒めとしても絶対有効。だって客観的に見ると、ホントみっともないんだもん。日本人ならこっちの方が、やっぱり恰好イイよねぇ↓↓↓
実るほど こうべを垂れる 稲穂かな
- 『感じる科学』さくら剛 (2011年12月8日更新)
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- 丸善書店津田沼店 沢田史郎
- 1969年生まれ。いつの間にか「おじさん書店員」であることを素直に受け入れられるまでに達観致しました。流川楓君と身長・体重が一緒なことが自慢ですが、それが仕事で活かされた試しは今のところ皆無。言うまでも無く、あんなに高くは跳べません。悩みは、読書のスピードが遅いこと。本屋大賞直前は毎年本気で泣きそうです。読書傾向は極めてオーソドックスで、所謂エンターテインメント系をのほほ~んと読んでいます。本屋の新刊台を覗いてもいまいちピンとくるものが無い、そんな時に思い出して参考にして頂けたら嬉しいです。