『ゴールデンラッキービートルの伝説』水沢秋生

●今回の書評担当者●丸善書店津田沼店 沢田史郎

 子どもが主人公の物語が好きである。「青春」と呼べるほど成長している訳ではなく、だけどサンタクロースなんか本当はいないってことぐらいは解っている。そのぐらいの歳の子どもが、悩んだり落ち込んだり自棄になったりしながら、大人への道のりへ一歩踏み出していくストーリー。
 例を挙げるなら、まず何と言っても重松清さんの『エイジ』(新潮文庫)と、池永陽さんの『少年時代』(双葉文庫)は外せない。次いで、川上健一さんの『翼はいつまでも』(集英社文庫)や、はらだみずきさんの『帰宅部ボーイズ』(幻冬舎)、山本幸久さんの『幸福ロケット』(ポプラ文庫)に、湯本香樹実さんの『夏の庭』(新潮文庫)。時代小説なら乙川優三郎さんの『喜知次』(講談社文庫)、SFタッチがお好みの方には、方波見大志さんの『削除ボーイズ0326』(ポプラ文庫)など如何だろう?

 で、『ゴールデンラッキービートルの伝説』だが、ストーリーそのものに派手さはない。
 舞台は関東のどこかの小都市。小学六年生の羽吹潤平と津田陽太は、放課後はいつも一緒の遊び友達。近所の雑木林の一角、不法投棄された粗大ゴミが山と積まれた場所を、「ジャンクショップ」と名付けてホームグラウンドにしている。そんな或る日、二人の日常に唐突に飛び込んできたのが、クラスメイトの水沢日菜だった。
 彼女はいつもダブダブのセーターを着て、誰と仲良くするでもなく黙って席に座っている。無口で無表情で無気力で辛気臭い。クラスの誰もが何と無く「変わった奴」として敬遠している。それは潤平たちも例外ではなく、それどころか、ウサギ小屋のウサギを殺した犯人ではないかと疑い、遂には尾行までして正体を見極めようとする。
 が、その尾行先でちょっとした事件に巻き込まれたことが、彼ら三人の距離を一気に縮める。やがて三人は例の「ジャンクショップ」で一緒に本を読み、宿題をやり、そして夢を語り合う仲になるが、当然ながら、子ども時代は永遠には続かない......。

 十代前半の彼らの人生は、まだまだ始まったばかりである。この先間違ったり、迷ったり、裏切られたり、或いは自分が誰かを裏切ってしまうこともあるだろうし、大切な人を傷つけることもきっとある。即ち、物語の中で彼らが漸く乗り越えた壁など、長い人生の中ではほんの序の口に過ぎないということを、大人である我々は知っている。だからこそ、「この先もっと大きな試練にぶつかっても、頑張って進んでいくんだぞ」と、応援せずにはいられなくなる。そんな風に、フィクションであることを忘れさせる力が、『エイジ』にも『少年時代』にも『削除ボーイズ0326』にも、そして『ゴールデンラッキービートルの伝説』にも、確かにある。

 小学生時代の記憶を心の奥で大切にしながら、大人の世界を生きていく。そんな潤平、陽太、日菜の三人が瞼に浮かんで来るような、切なくもあたたかい読後感だった。

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丸善書店津田沼店 沢田史郎
丸善書店津田沼店 沢田史郎
1969年生まれ。いつの間にか「おじさん書店員」であることを素直に受け入れられるまでに達観致しました。流川楓君と身長・体重が一緒なことが自慢ですが、それが仕事で活かされた試しは今のところ皆無。言うまでも無く、あんなに高くは跳べません。悩みは、読書のスピードが遅いこと。本屋大賞直前は毎年本気で泣きそうです。読書傾向は極めてオーソドックスで、所謂エンターテインメント系をのほほ~んと読んでいます。本屋の新刊台を覗いてもいまいちピンとくるものが無い、そんな時に思い出して参考にして頂けたら嬉しいです。