『おとうさんは同級生』澤本嘉光

●今回の書評担当者●丸善書店津田沼店 沢田史郎

 40代......。高校生の頃は、あと二十数年すれば自分も40歳になるという当たり前の計算が、つまらん冗談にしか聞こえなかった。両親や学校の先生を含め彼ら40代の言動からは、生きていく上でのヨロコビみたいなものが一向に伝わって来なかった。何が楽しくて生きてるんだ、一体......? まぁ要するに高校生の私にとって、40代ってのは謎多き未知の生物と言うに等しかった。

 で、そんな異質な存在が、突然クラスに放り込まれたら? ってのが『おとうさんは同級生』。

 主人公の花島翔は、弱小暴力団「毛飯会」に所属する45歳の現役ヤクザ。いかつい体つきで角刈り、がに股と言うから、『こち亀』の両さんを想像すればそう間違ってはなさそうである。

 その翔がなにゆえ、お固いので有名な聖ミカエル学園に編入させられたのか? 無論、翔が自ら望んだ訳はない。小なりと言えども歴とした暴力団の、ナンバー2にまで伸し上
がった男である。今更高校に通ってどうする!?

 実はそこに絡むのが、近年急速に勢力を拡大してきた「日横組」。毛飯会とはかねてより犬猿の仲だったが両者の関係がいよいよ切迫、毛飯会・松野組長の孫娘が日横組に狙われるという、由々しき事態に発展する。心配で夜も寝られぬ松野組長は、一の子分である翔を孫娘のボディガードに登用するが、学校にはボディガードは入れない。ならば、懇意にしている校長と示し合わせて、翔を生徒に偽装しようという、無茶振り過ぎるプロジェクト。

【しかし、この年齢で、この顔ですよ......】
 と抗う翔に組長は一喝。
【知らん! とにかく17歳で通せ。はい、お前は今から17歳】
 斯くして始まる、翔の二度目の高校生活......。

 といったプロローグだけで、リアリティを追求した物語でないことは凡そ察しがつくと思う。何しろ組の名前が「もういいかい」に「ひよこぐみ」である。幼稚園の年少さんかっちゅうねん。とても17歳には見えない翔に、その日の内についた渾名が「おっさんさん」だし、件の組長の孫娘は小田麻里である。「はなしましょう」に「おだまり」って、殆ど『三年奇面組』の世界である(古くてゴメン)。しかも麻里の素性をよくよく聞けば、どうも組長の孫ってのは何かの勘違いで、実際は18年前に別れた妻がひっそりと生んだ、翔の娘ではないかという疑惑が浮上して......。

 以降次から次へと展開するあり得なさ過ぎの状況は、まるでマンガを読んでるような気楽な馬鹿馬鹿しさに満ちている。父親が、図らずも娘の学校生活を垣間見るという成り行きは、舘ひろし×新垣結衣でドラマにもなった、『パパとムスメの7日間』(五十嵐貴久、幻冬舎文庫)にも近い雰囲気。受験オンリーで無感動無表情な高校生たちが、花島翔という異物にどう影響されるかも読みどころ。ドタバタコメディが好きな人なら、間違い無く楽しめる。

 そして老婆心ながらついでに一言。日々、可哀そうな生き物を見るような目で我々40代を見ている現役の高校生諸君。君たちの上にも時間は平等に流れるのだよ。命短し、恋せよ乙女。今を大切に(笑)

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丸善書店津田沼店 沢田史郎
丸善書店津田沼店 沢田史郎
1969年生まれ。いつの間にか「おじさん書店員」であることを素直に受け入れられるまでに達観致しました。流川楓君と身長・体重が一緒なことが自慢ですが、それが仕事で活かされた試しは今のところ皆無。言うまでも無く、あんなに高くは跳べません。悩みは、読書のスピードが遅いこと。本屋大賞直前は毎年本気で泣きそうです。読書傾向は極めてオーソドックスで、所謂エンターテインメント系をのほほ~んと読んでいます。本屋の新刊台を覗いてもいまいちピンとくるものが無い、そんな時に思い出して参考にして頂けたら嬉しいです。