『はじめてのキッチン』小林ケンタロウ
●今回の書評担当者●正文館書店本店 清水和子
裁縫は苦手ですが(針に糸が通らない)料理はすきです。小学生の頃から料理本を見て、何回も手順を頭の中でシュミレートしていました。それがとても楽しかったです。初めて自分の手で作ったときの感動といったら〜。この地球上で育ったものを自分のこの手で調理できるって、なんて料理って素晴らしいのでしょう。心を込めれば美味しいというのも不思議。人間の営みはやっぱり一筋縄ではいかないな〜。作っても食べてしまえば、きれいさっぱり無くなってしまう所も潔くてよいな〜。
やっぱり野菜の王様は、じゃがいも・にんじん・玉ねぎではないでしょうか。この3種類あれば大体の料理は作れると言っても過言ではない。高級な食材を使えばそれなりに美味しいものは作れます。しかし! やっぱり庶民の食材を使って本気で美味しいものが真実の料理だ〜と思います。
そしてケンタロウのこの本。図書館で立ち読みしていて、落雷的な衝撃を受けました。肩と足がぷるぷるしました。この『はじめてのキッチン』は子どもだけじゃなく、料理を余りした事がない大人に向けての本でもあります。序文の「はじめに」の文章にまずガツンとやられました。見開き2ページ、全部ここで紹介したいですがグッとこらえます。ゆで卵から始まってジュースまで。おつまみもあります。
そのページでケンタロウは「近くのおとなの人へ」と呼びかけています。私は図書館という事も忘れ、その言葉に涙が出そうになりました。そうですよ、世の中には様々な人々がいます。お父さんお母さんと一緒に暮らせない子どもだっているだろう、このおつまみを作ろうとした時、全く赤の他人の大人が近くにいる事だってあるかも知れない。世の中ではよく「保護者の方へ」「お母さんへ」としか書かれていない事があって、いつもうっすらヤダな〜と感じてました。しかしケンタロウの言葉はそれらを払拭し更に思いやりがある!
ケンタロウの母カツ代もすきです。いきなりですが、豆腐って調理するとスが入りますよね。私はスが入ってた方が味も染みるしすきなんですが、どの料理本を見てもスを入れないように、見かけ悪いし、としか書いていなくて、くよくよ悩んでおりました。ある日カツ代の本を見た所「スが入っても気にしない」と書かれており、ずごく衝撃で目の前がさぁーと明るくなったのです。嗚呼料理って自由なんだー! と叫びたくなったのです。
そんなカツ代考案の「ぶんまわしおにぎり」がこの本でも紹介されています。普通料理の手順と言えば①材料を切る②炒める、というかんじですが、これは①ふきんにご飯を入れる②ぶんまわす、です。②ぶんまわすって! ってなんてすごい本なんだ〜。嗚呼もっと料理したい! しよう! と思える本なのであります。
- 正文館書店本店 清水和子
- 名古屋の正文館書店勤務。文芸書担当。名古屋は良い所です。赤味噌を笑うものは赤味噌に泣くぞ!と思います。本は究極の媒体だ〜。他の書店に行くのも図書館に行くのもすき。色々な本がすきです。出勤前にうっかり読んでしまい遅刻しそうになり、凄い形相で支度してることもしばしば。すぐ舞い上がってしまうたちです。(特に文学賞発表のときなど)すきな作家の本の発売日は、♪丘を越え行こうよ〜の歌が頭の中でエンドレスに流れてます。誕生日占いが「落ち着きのないサル」だったので、心を静めてがんばりたいです。