『ハッスルで行こう』なかじ有紀

●今回の書評担当者●正文館書店本店 清水和子

  • ハッスルで行こう (第1巻) (白泉社文庫)
  • 『ハッスルで行こう (第1巻) (白泉社文庫)』
    なかじ 有紀
    白泉社
    669円(税込)
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 三浦しをんのエッセイを読んでいて、自分も同じだ〜!と驚愕した事があります。1つは垂直ではなく平行で生活していたい(布団に寝そべって本ばっかり読んでいたい)という事。もう1つは、なかじ有紀のコミックは全部読んでいる事。嗚呼同じだ〜!

 コミックの書評本などもすきで読みますが、なかじ有紀が余り取り上げられないのは何故だろう。大体において、少女コミックよりも大人コミックの方が評価が高い気がします。大人コミックもすきだけど、赤裸々ばかりなのはちょっと......と思ってしまいます。赤裸々でもいいけど、そこに「何か」なくちゃ。品もなくちゃ。下品なのはイヤだなあ。そしてやっぱり「漫画」であるならば絵の線が綺麗でないと。更に「少女漫画」であるならば、登場人物も、着ている服も可愛くなきゃ嘘だと思います!

 なかじ有紀は、線も綺麗で常に美男美女ばかり登場して、ファッションもいつもすごく可愛らしい。色々あっても登場人物はいつも前向きだ。しかしそれで良いではないか。そういう心持ちは人生の基本だと思います。

 最新作『HEAVENカンパニー』迄読んでいますが、やっぱり一番すきなのはこの『ハッスルで行こう』です。調理師専門学生の久保海里は、イタリア料理店ピッコロでバイトを始めます。最初は雑用ばかりだった彼が、仕事を「もらう」ではなく「取る」ことを覚えるようになります。やがて、試行錯誤しながらもデザートを任されるように......。店には色んな先輩がいます。珍しい食材(センマイ)を「舌の経験値になりゃ何でも有難い」と口にし、引き抜きの話が来た時は「店も自分で手に入れたい。他人の力で与えられたら達成感が得られない」と断る。格好良いなあ。

 出てくる全部の料理・デザートがおいしそうなのです。その1つ1つに工夫がしてあって、過程がある。チョコレートのテンパリングを野菜カッターで代用するのも目からウロコでした。

 女子にはまだまだ料理界への門戸が開けていない事もさりげなく描かれています。しかしこの話に出てくる女の子達は、それでも一歩一歩前進していくのです。私は「夢を叶えるために頑張ろう」なんて台詞をきくと、ケッと思ってしまう質ですが、この話にはそんな陳腐な言葉は出てきません。すきな事をする楽しさや喜びが素直に描かれてあって、清々しくて爽やかです。素直は美徳だ!

 何回も読み返してしまう話です。

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正文館書店本店 清水和子
正文館書店本店 清水和子
名古屋の正文館書店勤務。文芸書担当。名古屋は良い所です。赤味噌を笑うものは赤味噌に泣くぞ!と思います。本は究極の媒体だ〜。他の書店に行くのも図書館に行くのもすき。色々な本がすきです。出勤前にうっかり読んでしまい遅刻しそうになり、凄い形相で支度してることもしばしば。すぐ舞い上がってしまうたちです。(特に文学賞発表のときなど)すきな作家の本の発売日は、♪丘を越え行こうよ〜の歌が頭の中でエンドレスに流れてます。誕生日占いが「落ち着きのないサル」だったので、心を静めてがんばりたいです。