『飛ぶ教室』エーリッヒ・ケストナー
●今回の書評担当者●正文館書店本店 清水和子
クリスマスなので、それに因んだ本にしました。現在より80年程前、ドイツのギムナジウムを舞台にした、有名な小説です。
清いです。清くて正しく美しいというのは実は凄い事なんだ、と初めて気付かされたかも知れません。読後感も爽やかで清々しいですが、余りにも心にぐわぁーとこの世界が丸ごと来ていて、凄過ぎて暫く動けませんでした。私は所謂「泣ける小説」というものがよく分りません。「ける」の字面も語感も何だかすきじゃないし、「泣け」てどうするんだろう? と、とても謎なのです。よく帯で「100万人が泣けた!」と見掛けるけどゾッとします。その100万人が涙製造機のロボットの様に思えてとても怖い。本を泣く道具に使われている様な気がしてかなしい。音楽も映画も然り。涙は大事だし、泣くのなら意表をつかれてオリジナリティを持って胸はって泣きたいものです。と、ひねくれてる私ですが、この本では滂沱の涙でした......。
ジョーニー、マルチン、マチアス、ウリー、ゼバスチャン、皆個性は違うけれど仲良し5人組です。もうすぐクリスマス、マルチン脚本の「飛ぶ教室」の劇を練習する中、他校と決闘したり弱虫なウリーが勇気のある所を見せようと頑張ったり。もう夢中になって読みました。活字が、力を持ってきらきらしていました。人間がまっとうで、子どもも大人も向かい合ってちゃんと生きている。ちょっと意地悪な美少年テーオドールがすぐ改心する所が可愛らしい。一切笑わないのに面白い事を言うクロイツカム先生もすき。この先生は「すべてわるいことをしたばあいには、それをやった者ばかりでなく、それをとめなかった者にも責任がある」との凄い名言を放ってます。自分の事をサンタクロースの様だと言う校長先生もすきだなあ。そして、舎監の正義先生ことベク先生と、5人の相談相手でもある禁煙さんの友情。こんなにちゃんとした大人を見るのは久し振りな気がします。人はつい、その人の今置かれている立場で諸々を認めてしまいがちですが、そういった結果論ではなくその人の心の持ちようを見るべきだ、と2人を見ててハッとしました。この2人が再会できてとってもじぃんとしています。
そしてマルチン! 両親は立派な人達ですが、家が貧乏で汽車賃も足らずなんと今年のクリスマスは帰省できなくなってしまう。大すきな母親から手紙で泣かないと約束してねと言われ「泣くこと厳禁泣くこと厳禁」と寝言でも繰り返すけなげなマルチン。私も一緒に唱えました。そんなマルチンに奇跡のクリスマスプレゼントが......! とても嬉しかったです。ナチスに執筆を禁止されたケストナーの本を、現在でも読める事に感謝です。
- 『ほんまに 海文堂通信「海会」別冊』編集協力:海文堂書店/編集発行:シースペース (2009年11月26日更新)
- 『ロング ウェイ ラウンド』ユアン・マクレガー&チャリー・ブアマン (2009年10月22日更新)
- 『コーパスへの道』デニス・ルヘイン (2009年9月24日更新)
- 正文館書店本店 清水和子
- 名古屋の正文館書店勤務。文芸書担当。名古屋は良い所です。赤味噌を笑うものは赤味噌に泣くぞ!と思います。本は究極の媒体だ〜。他の書店に行くのも図書館に行くのもすき。色々な本がすきです。出勤前にうっかり読んでしまい遅刻しそうになり、凄い形相で支度してることもしばしば。すぐ舞い上がってしまうたちです。(特に文学賞発表のときなど)すきな作家の本の発売日は、♪丘を越え行こうよ〜の歌が頭の中でエンドレスに流れてます。誕生日占いが「落ち着きのないサル」だったので、心を静めてがんばりたいです。