『ジモンの肉本』寺門ジモン
●今回の書評担当者●正文館書店本店 清水和子
1月下旬のある真夜中、私は大層打ちひしがれておりました。自分の店に入荷がなかったとはいえ、1ケ月も前に寺門ジモンの新刊が出ていたと今知るとは......! 「ファンとして」「顔向け」「失格」など様々な単語が頭の中をぐるぐる飛び交いました。翌日気持ちを奮い立たせて客注でとったのが、この本です。
ジモンがお笑いトリオ:ダチョウ倶楽部のメンバーとしてどんな活動をしているのか殆ど知りませんが、本のジモンのファンなのです。これは別冊ライトニングの連載をまとめた本「疑う前に食べなさい。」「えっ、これを食わずに生きてたの?」「これを食わずに死ねるか!!」に加筆・再編集したものです。この3冊の書名だけでも心を掴まれますが、中はもっと魂に直撃する名言が吹き荒れています。「はじめに」のページだけでも凄い。「ワンダフルフード」「脳が揺れる」「目でかぶりつく」......全て「肉」について表現している言葉です。ジモンは多分、本当にそう思ってそう言葉にしているだけなんだろうなあ。でも私の天と地はひっくり返る。自分の思っていた言葉の常識がジモンの発する日本語:たった五十音によって。言葉の羅列で自由を感じられるのは幸せな事です。この本でジモンは様々な肉を扱うお店を紹介していますが、うんちくをひけらかす訳でもなく初心者が読んでもやさしくたのしい。性格の良さが前面に表われているなあ。肉に対して余りにも一直線の為、ぷぷぷと笑ってしまうけど、その心意気にじいんとしてしまい、これってまるで素晴らしい小説を読んだ時と同じ感情です!
お店の人達と一緒に載っている写真も多く、どの皆さんも良い笑顔です。きっと芸能人だからうんぬんではなく「美味しいお店は寝れない」「真摯な姿勢で肉に挑むのだ」「肉友」と言うジモンと、「肉」を介して心が通じ合ったんだなあ。そんな笑顔です。
故ナンシー関は、そんなジモンのストイックさを実はいち早く見破っていたのであります。`96/11/23号の「週刊朝日」で、ジモンのマイ・テーマはストイックそうだと記しているのです。その記事は最近知りましたが流石ナンシー関です! 故池波正太郎とジモンの共通項もあります。2人共小さい頃おこづかいやお年玉を無駄使いせず、貯まるとおいしいものを食べに1人で本格的なお店に通っていた......!
人が自分の心の儘に突き進んでいる姿は本当に清々しい。心の奥底を揺さぶられます。小説だけが本じゃない、とジモンの本を開く度にそう思ってしまいます。最後に、こんなおいしそうな写真を撮った写真家:橘宏幸氏にも拍手です!
- 『黒百合』多島斗志之 (2010年1月28日更新)
- 『飛ぶ教室』エーリッヒ・ケストナー (2009年12月24日更新)
- 『ほんまに 海文堂通信「海会」別冊』編集協力:海文堂書店/編集発行:シースペース (2009年11月26日更新)
- 正文館書店本店 清水和子
- 名古屋の正文館書店勤務。文芸書担当。名古屋は良い所です。赤味噌を笑うものは赤味噌に泣くぞ!と思います。本は究極の媒体だ〜。他の書店に行くのも図書館に行くのもすき。色々な本がすきです。出勤前にうっかり読んでしまい遅刻しそうになり、凄い形相で支度してることもしばしば。すぐ舞い上がってしまうたちです。(特に文学賞発表のときなど)すきな作家の本の発売日は、♪丘を越え行こうよ〜の歌が頭の中でエンドレスに流れてます。誕生日占いが「落ち着きのないサル」だったので、心を静めてがんばりたいです。