『僕はひとりで夜がひろがる』立原道造
●今回の書評担当者●正文館書店本店 清水和子
2月から予約してどきどきと待っていました。立原道造の詩に魚喃キリコがイラストを描く、という最高にクールなコラボレーションです。眺めていると、魚喃キリコの絵は最早漫画家のイラストではなく、画家のデッサンに思えてきます。
道造を初めて知ったのは、ある短編漫画でした。国語のテストに立原道造の詩が出てきて、感動して泣いている内に時間が来て白紙でテスト用紙を提出してしまう、というエピソードがあったのです。
活字の世界は活字の海だと思います。当り前だけど、広い。そしてそれぞれに繋がりがありつつ全く別々の世界が展開している。小説、詩、短歌、俳句、散文、その他諸々。共通しているのは「言葉」です。私は外国語は喋れないし、外国語の良さも分らないけれど日本語は良いなぁといつも思います。外国人が感じる様なジャポニズムの良さとかではないです。人類が誕生して日本語というものが確立して、それが土着感と共に細々と現代の日本人のDNAに組み込まれている気がしてならないのです!そしてそれは日本語に限らず、全世界の母国語を持つ人間に言える事だと思います。「ゐ」を「い」、「さう」を「そう」、「ゑ」を「え」と理解出来読めるのは大変幸せな事ではなかろうか。口に出して読んでみると、自分もその言葉遣いが当たり前だった頃のその時代に戻ってゆくというか、還ってゆくというか、懐かしい気がしてくるから不思議です。
という様な事を、道造を読む度に瞬時にしゅばばっと思います。その同時代の作家達にも同じ様な事を感じますが、道造に対してが一番顕著なのです。何故だろうなぁ。
道造は、繊細だ。コップの中に海を見て、睫毛には虹があり、雲は乾き、片仮名の「リ」と平仮名の「り」は似ていると感じ、詩が罰点をつけるのである!しかも庭に干瓢を乾してあったりするんだぜ!嗚呼凄い。君は詩を描く時に「干瓢」という単語を持ち出せるかい?と誰彼問わず訊きたい程の衝撃だ......。嗚呼心がじゅんじゅんしてくるなぁ。このアヴァンギャルドさ、なんて独得で瑞々しいのだろう〜。心が宇宙に飛んでいきます。
道造の虜となっている多くの現代人の内で、その心が一番しっくりきたのは童話作家:立原えりか氏です。ひ弱で純粋で脆いような感じがするが、それは間違いで、彼の純粋度と透明感はかぎりなく強い、と記しています。私は、この世の中で道造の永遠は信じてもいいんじゃないかなぁ〜と思っています。
- 『恋と退屈』峯田和伸 (2010年3月26日更新)
- 『ジモンの肉本』寺門ジモン (2010年2月25日更新)
- 『黒百合』多島斗志之 (2010年1月28日更新)
- 正文館書店本店 清水和子
- 名古屋の正文館書店勤務。文芸書担当。名古屋は良い所です。赤味噌を笑うものは赤味噌に泣くぞ!と思います。本は究極の媒体だ〜。他の書店に行くのも図書館に行くのもすき。色々な本がすきです。出勤前にうっかり読んでしまい遅刻しそうになり、凄い形相で支度してることもしばしば。すぐ舞い上がってしまうたちです。(特に文学賞発表のときなど)すきな作家の本の発売日は、♪丘を越え行こうよ〜の歌が頭の中でエンドレスに流れてます。誕生日占いが「落ち着きのないサル」だったので、心を静めてがんばりたいです。